さて。
そういうわけで、「兵器の生産量」という切り口で各国を眺めると、アメリカ合衆国が突出していることが分かりました(知ってた)。
むしろ、前回記事なんかはコメント欄の方が充実しているという有様であり、非常に続きを書きにくいわけですが、皆様いつもありがとうございます。
コメントをたくさん頂けて、大変励みになってます。
総力戦
本題に入る前に、まずは「総力戦」というものについて簡単に説明しておきます。
総力戦とは、「国家がすべての力を持って戦争に挑むこと」です。
この「すべての力」というのは、軍事力だけではありません。
国家が持つ「経済力」「科学力」「生産力」「工業力」といった、本当にすべての力を含みます。
さらに、戦争には「心理的影響」(士気)も大いに影響するので、「マスメディア力」みたいなのも含みます。
こういうポスターや写真だって、強さの一つ。
なお、すべての力を持って戦争に臨むというのは、「戦争がすべてに優先する」状態でもあります。いわゆる戦時体制ってやつです。
戦争がすべてに優先する状態というのは、戦時中なら当たり前のような感じもしますが、意外にそうでもありません。
例えば、イラク戦争みたいな最近のアメリカの戦争を思い出してみると、アメリカが持つすべて力を費やしたわけではないことが分かります。
あの時のアメリカの国防予算は、GDP比で4%前後。戦争前と比較してもそこまで激増したわけではありません。つまり、アメリカはいつも通りの軍備で圧勝しちゃったのです。
それに比べ、第二次世界大戦の時のアメリカの国防予算は、なんとGDP比で40%。
アルコールで言えば、氷結とウィスキーくらいの差なわけで、これは相当なものです。
そんなわけで、「総戦力」とは平たく言ってしまえば、ステータスを戦争に全振りするという、とても危険な戦争です。
普段の経済活動が成り立たないどころか、戦争に負ければ、そのまま国が滅びかねません。一か八かの賭けなのです。
そして、世界の主要国が軒並みその「総力戦」に突入したのが、第二次世界大戦でした。
その中で、アメリカ他国を圧倒した理由はたくさんあるわけですが、まあ適当にいくつか見ていきましょう。
資源
まずは資源について。
大日本帝國がさんざん苦しんだのも、この資源が不足していたからに他なりません。
一方のアメリカは、世界有数の資源大国。アメリカ本土だけでも、ざっとこれくらいの地下資源があります。
メサビ鉄山
ビンガム銅山
油田労働者。水が美味そう。
まともな油田がひとつもない日本を想うと、なんだか目から汗が。
「日本が1年かけて採取できる石油をアメリカは半日で…」という当時の武官の呻きが残ってるとか。
原油の生産量は、日本1に対してアメリカ738です。
なお、アメリカのように、国内に地下資源があるというのは、圧倒的に有利です。
例えば、ブリカスなんかは、地下資源のある植民地を世界中に持っていましたが、いざ使おうとする時には本国まで船で輸送しなければなりません。
しかし、第二次世界大戦中は、ドイツが全力を注いだ潜水艦によって輸送船はことごとく撃沈され、(元)世界の工場の全力はあんまり発揮できませんでした。
工業力
さらに、アメリカはその豊かな資源をフル活用すべく、各所に工業都市を作っていました。
例えば、今では廃墟として有名なデトロイトは、自動車製造のメッカでした。
戦時中のデトロイト
という感じ。どの都市も、戦時中とは思えない雰囲気があります。
しかも、世界恐慌から中々立ち直れずにいたアメリカは、失業者が大量にあふれていました。休眠していた工場もたくさんあった状態。
そんなところに戦争が起こったらどうですか。
「仕事があるぞー!」と呼びかければ、山ほど工員を雇用できるし、遊んでいた工業機械とかも物凄い勢いで唸りを上げて兵器を作るようになるわけです。
それでも工員が不足しがちな各企業は、給料を上げるのはもちろんのこと、「1日8時間以上働いたら残業代をつけるよ!」と福利厚生のよさをPRして(※戦時中です)、必死の人材確保に走るわけです。
戦時中ですから、若い男はどんどん戦争に行きます。となると、工員が足りなくなるわけで、女性工員も大活躍。なんと戦時中に働く女性が600万人近く増えました。
もちろん、第二次世界大戦に参加した国々は、程度の差はあれ、例外なく女性の労働力を活用していました。しかし、仕事に対するモチベーションは、アメリカが1番だったようです。労働条件とかが段違いなので、まぁ当然ではありますな。
「長い髪は危険よ!」という啓蒙ポスター。
よく見る一枚
飛行機だって組み立てちゃう
もはや貫禄すらあります
生産効率
アメリカの工業製品は、生産量だけでなく、その品質も安定して高いものでした。
その秘密は、「科学的管理法」。フレデリック・テイラーというアメリカ人の学者さんが提唱した方法論です。
超簡単に言うと、次のような感じ。
(手を伸ばす・モノを掴む・モノをテーブルに置く、みたいな)
↓
② その一つ一つの動作にかかる時間を測り、そこに無駄がないか検討する
↓
③ こうして、「唯一最善の作業方法(=マニュアル)」と「現実的な1日の作業量(=ノルマ)」が分かる
↓
④ マニュアルを工員に習得させ、熟練工も新人も区別せず同じ条件で作業させる
↓
⑤ ノルマを課し、達成したら賃金割増、未達なら賃金割引
↓
⑥作業効率が超大幅にアップ!!
そもそも、昔は一人の人間がすべての工程に習熟する必要があったわけです。
いわゆる「職人」と呼ばれる存在ですね。
彼らは、長きにわたる研鑽を通して、「高い技術」や「職人の勘」を身につけ、高い品質のモノを作れるようになるのです。
しかし、そんなすごい職人を育成するのは大変だし、誰でもなれるわけではありません。
そこで、一連の作業を分割して分業するようになっていったのが、工業の発展の一側面です。
習熟すべき工程が少なくなれば、それだけ簡単に熟練工になれるという理屈。この結果、工業製品の生産効率は、飛躍的に向上していったのです。
この「科学的管理法」は、その効率化をさらに後押ししたと言えます。
なお、アメリカにおける一人あたりの生産効率は、戦中を通じて向上し続け、1928年と1943年では1.3倍にもなっております…。
メシ
ところで、工業のばっかり人員を動員すると、次は食料の不足が心配になります。大豆やトウモロコシを育てるのだって、人手が必要ですからね。
ところが、同じように大恐慌から立ち直れていない農家とかが、「国がいくらでも買い取ってくれるぜ!」とばかりハッスルして、なんと穀物生産量は戦前の1.5倍まで増加しますw
なんか、土地のスケールが違うんだよなぁ…
というわけで、ざっとアメリカチートの秘密を探ってみましたが、いかがだったでしょうか。
本当はもっと複雑にいろんな要素が絡み合ってますし、アメリカはアメリカで大きな混乱や困難もあったみたいですけどね。
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