食文化。
それは、その国の歴史、気候、風土、人々の営みの集大成であり、世界には個性あふれる様々な料理が存在しています。
そうした中、常にマズいと言われ続けてきたのがイギリス料理であります。口に合う合わない以前に、センスが無い、味がしない、見た目が悪い、調理法が単純etc…。散々な言われようです。
しかし、果たして我々はイギリス料理の本当の姿をどれほど知っているのでしょうか。
本当にまずいのか。
どのような歴史を辿ってきたのか。
どのような文化的背景があるのか。
気付かぬうちにネットの言説に影響されていないか。
ブリカスが歴史の中で働いてきた悪事から、先入観を持っていないか。
本記事では、ブリカスめ!!みたいな先入観にとらわれず、フェアな気持ちでイギリス料理の深奥に迫って見たいと思います。
m9(`・ω・´)ビシィ!!
イギリス料理の位置付け
などと大袈裟な前置きを書きましたが、実は世界におけるイギリス料理のランクはそこまで低いわけではありません。
イギリスの世界ランク
TasteAtlasという大手フードガイドで、レビュー点数に応じた世界の料理ランキングが発表されており、イギリス料理は堂々の48位です。
TasteAtlas Awards 24/25
半分より上。思ったより高いでしょ?
なお、スコットランドは78位、北アイルランドとウェールズは圏外。ちなみに2023年度は、スコットランドが47位、北アイルランドは96位、ウェールズは98位だったので、大幅にランクダウンしてます。
イギリスを構成する4つのカントリーのうち3つは厳しいとして、少なくともイングランド、特にロンドンなど大都市は、近年はかなり美味しいレストランが増えています。
経済がまあまあ調子が良いこと、移民が結構多いことなどから、世界各国から美味い食材と腕のいいシェフが集まっているので、世界中の様々な国の料理を楽しめます(それなりにお金を出せばね)。
例えばミシュランガイドで調べてみると、星付きレストランは86軒もあるのです。つまり、イギリスは飯がまずいというイメージは、今やまったくの見当違いなのであります。
イギリス人自身の評価
ただ、イギリスの伝統料理になると、ちょっとまた話は変わってきます。
2019年のものになりますが、イギリスの調査会社であるYouGov社が、イギリス人6367人を対象に「イギリス伝統料理が好きか嫌いか?」を調査しました。
その結果がこちらの表。
調査の全貌はこちら
美味しい部類がGOD TIER。TIERというのは階層とかレベルみたいな意味です。
最下層はCRAP TIER。CRAP=💩ね。
イギリス人自身が回答したこの結果を元に、主要なイギリス伝統料理を見ていきましょう。
GOT TIER
まずは神レベルから行くぞ!
ヨークシャー・プディング
単体では無力
Yorkshire Pudding。シュークリームの皮みたいと形容される、味の無いパン的なもの。ローストビーフとかの付け合わせで出てきて、ソースや肉汁を染み込ませて食べれば美味い。
プディングというとプリン的な印象を持ってしまいますが、英語の”pudding”は小麦粉などを混ぜて蒸すか焼くかして固めた料理全般を指します。別のプディングもこの後に出てきます。
サンデー・ロースト
いわゆるローストビーフ
Sunday Roast。牛モモ肉をじっくり焼いた、直球勝負の料理。
その起源は中世まで遡るとも言われており、週に6日間働く農奴を労うために、地主が日曜朝の礼拝後にご馳走として雄牛のローストを与えたことから始まったと言われています。
日曜の朝、教会に出かける前に肉と野菜をオーブンに入れ、礼拝が終わって腹を空かせて家に帰ると、たまらなくいいにおいがキッチンから漂ってくる。みたいな感じが、現代でもイギリスの理想的な休日だったりするわけです。
ただ、腕前によって仕上がりにはかなり差があり、モサ・・パサ・・という食感になりがち。
フィッシュ&チップス
安定の揚げ物
イギリス料理の代表格、Fish&Chips。
交通網の整備と冷凍技術の発達により、爆発的にイギリスで普及しました。1930年代には、イギリス国内に35,000軒もの店がありました。それほどまでに庶民に愛されていたのですね。
実際に、日本でも提供してくれる店は多いので、けっこうファンも多いのでは無いでしょうか。サクサクした衣が最高ですよね。
ただ、現地のものは味付けされていないのと油が悪いこともあり、店によって味はマチマチです。
一緒に提供される大量の調味料を活用して、自分だけの味を見つけろ!
クランペット
要は、パンケーキ
Crumpetは、発酵させた小麦粉の生地を、丸い型に入れて焼き上げた、ほんのり甘いパンケーキ。
外はカリッと中はもちもち。我々が慣れ親しんだパンケーキやホットケーキとはまた異なる食感がクセになります。
表面にぽちぽちと空いた気泡の穴に溶けたバターが染み込み、最高に美味いと評判です。
日本でも、おしゃれカフェなどで流行りつつあるみたい。
フル・イングリッシュ・ブレックファースト
朝食は大事
イギリス伝統料理の中でもトップクラスに評価が高いのが、このFull English Breakfastです。
かのウィリアム・サマセット・モームは、「もしイギリスでまともな食事にありつきたかったら、朝食を3回食べることだ」という格言(悪口)を残しました。
顔が怖い
ワンプレートに、トースト、目玉焼き、ソーセージ、トマトソテー、マッシュルームソテー、ベイクドビーンズなどが盛り付けられ、ボリューム満点。
豆が周りに沁みていくのが難点ですが、1日の活力を養います。
17世紀まで、イギリスに朝食の習慣はありませんでしたが、産業革命のあたりから、労働の前にガッツリ食べてカロリーを蓄える習慣が広がっていったようです。
ベーコン・サンドイッチ
シンプル・イズ・ベストか。
Bacon Sandwich。バターを塗ったパンにベーコンを挟んだもの。
え!?それだけ??と思われるかもしれませんが、それだけです。しかし、イギリスではめちゃくちゃ愛されている料理なのです。
そもそもイギリスにおいてベーコンは1000年以上の昔から作られており、20世紀に入っても都市部の各家庭で豚を飼っていたほど。
家ごとに秘伝の製法なんかもあって、我々がスーパーでパパッと買うのとは思い入れがダンチなわけですね。
TOP TIER
続いて、上位の人気料理にいきます。
バンガーズ・アンド・マッシュ
個人的ベスト
Bangers&Mashのバンガーズとは、ソーセージのこと。すなわち、ソーセージ&マッシュポテトである。
これはもうマズくなりようのない組み合わせですね。
なお、正統派のバンガーズ&マッシュに使われるソーセージは、カンバーランド・ソーセージというこのトグロを巻いたような長いもの。50cmくらいあります。
何とも言えないルックス
コテージ・パイ & シェファーズ・パイ
普通に美味そう
外国人にも人気なパイ料理。
Cottage Pieは牛肉、Shepherds Pieは羊肉。その上にマッシュポテトを重ねて焼いたもので、マッシュポテトがパイ生地替わりになっています。
元々は貧困層が、安く手に入るジャガイモと余り物の肉の切れ端をなんとか活用するためのレシピでした。
CRAP TIER
はい。ここまで、イギリス伝統料理の上層を眺めてきました。
GOD TIERが本当に神レベルなのかは別として、シンプルなものが多くて美味しくないはずがない印象。
続いて、コメントしにくい中間層はサボらせていただき、お待ちかねのCRAP TIERに移ります。
皆さんもこれが見たかったんでしょう?
ステーキ&キドニー・プディング
形状はプリン
Steak&Kidney Pudding。キドニーとは腎臓のこと。
サイの目に切った牛肉と腎臓のミンチを煮込んだシチューを、スウェット(suet)という生地で包んで蒸します。
スウェットは腎臓周りの脂肪を意味していて、我々には馴染みがありませんが、イギリスでは古くからバター代わりの安価な油脂として利用されてきたもの。
この脂を練り込んだ生地はモチモチ系。モツ系がOKなら、かなりイケるお味のようです。
普通のパイ生地バージョンもあり、こちらの方が食べやすいみたい。
ブラック・プディング
黒い・・・
Black Pudding。朝食にも添えられたりする、黒いソーセージの輪切り。
ソーセージと言っても肉は入っておらず、中身は主に血。あとは脂身やオートミール、香辛料が腸詰されています。
味はそこまでクセはありませんが、見た目がちょっとあれなのと食感がパサパサ系。
キッパー
馴染みのある見た目
Kipperとは、ニシンの干物の燻製。
イギリスでは超メジャーな朝食メニューで、フル・ブレックファストに添えられることもよくあります。
米と味噌汁とこいつがあれば、他に何もいらんのではないか。これが英国人に不人気な理由がよく分かりません。
レバー・アンド・オニオン
レバニラOK なら余裕でしょ
Liver&Onion。
基本的に、イギリスは肉食です。
でも庶民は良い肉はなかなか口にできないので、内臓料理は結構多いです。
こちらはレバーと玉ねぎをオーブンで焼いた料理。普通に定食で出てきそうだし、むしろ美味しそう。
ハギス
見た目が良くない
Haggisは、スコットランドの伝統料理。
羊の内臓(心臓、肝臓、肺)のミンチ、オートミール、たまねぎ、ハーブを刻み、牛脂とともに羊の胃袋に詰めて蒸したものです。
2005年、シラク仏大統領は「(ハギスのような)ひどい料理を食べるような連中は信用がならないということだ」と発言し、大炎上しました。
なお、これに対して当時の英外相は「ハギスに関しては、尤もだ」との見解を示しいます。
また、この一連のやり取りを踏まえ、ブッシュ米大統領は同年のG8で「ハギス料理が出されることを懸念している」などと失礼なジョークを飛ばしています。
どうでもいいですが、発祥の地スコットランドでは、ハギス投げHaggis Hurlingなる競技があります。
その名の通り、ハギスを投げてその距離を競う競技。2025年時点での世界記録は66m。室伏広治のハンマー投げ記録が84.86mであることを考えると、かなり頑張っているのではないか。
ハギス投げ
色々見てたら、World Haggis Eating Championshipとかいう大会もあったw
そんな不味くないのかも
ファゴット
ミートボール
Faggotとは、豚レバーとハツのミンチにベーコン、玉ねぎ、パン粉を加えてこねて丸めたもの。
これをアミアブラで包んで焼いて出来上がりです。
内臓は安くて食べ応えがあるので、特にウェールズ地方の貧しい労働者の間では主食になるほど広く愛されてきました。
現代に入るとクセのある味から、その人気は薄れていきましたが、2004年に出版されたThe Whole Beast: Nose to Tail Eating(「獣丸ごと」〜鼻から尻尾まで食べる〜)という豚のあらゆる部位を扱った料理本がベストセラーとなった影響で、最近では再び消費量が伸びているようです。
洒落た表紙
レイヴァーブレッド
黒い・・・
Laver Breadは、ウェールズに伝わる、味の無い海苔の佃煮みたいなやつ。パンに塗るか、オートミールとまとめて焼いて食べます。
海藻を消化する酵素は日本人しか持っていないみたいな話もあるけど、どうなんですかね。
おそらくは、ご飯ですよの味薄いバージョンなのではないかと推測。だったらイケるぜ!
うなぎのゼリー寄せ
微グロ
Jellied Eelsは、ネット界隈でよくネタにされる超有名料理。
ぶつ切りにしたウナギを、水と酢とレモンと香辛料で煮込み、冷やしたもの。ゼリー状なのは、ウナギのコラーゲンです。
総じて評判の悪い料理ですが、ニッチなファンがいるのも事実。
かつてはテムズ川に大量のウナギが生息していたため、安価な栄養源として重宝されていました。
テムズ川に設置されたウナギ捕獲用トラップ
その他の有名なやつ
いかがでしょうか。
むしろ、だんだんとイギリス伝統料理を食べたくなってきたのではないですか?
内蔵系がわりと多いので、海外ではあまり好まれないのかもしれませんが、日本人の口には案外合いそうなものも多いのです。
管理人も実はイギリス料理童貞でありますが、ぜひトライしたいです。ハギスとか超興味湧きますよね!
続いて、ここまで出てこなかったけどメジャーな料理をもう少し紹介します。
マーマイト
イギリス人以外には理解できない味
marmiteは、ビール酵母の絞りカスに塩と砂糖を加えて煮詰めたもの。パンに塗って食べます。
イギリス料理の中でもトップクラスにまずいと言われていますが、イギリス人の一部にとってはソウルフード。
エルトン・ジョンなども、国外ツアーの際に必ず携行しているらしいです。
チキン・ティッカ・マサラ
カレーは正義
Chicken tikka masalaは、思いっきりインド料理っぽいですが、その発祥はイギリス。
1960年代にイギリス(一説にはスコットランド)のインド料理店で考案された料理です。
チキンティッカというのは鶏の胸肉をスパイスとヨーグルトに漬け込んで焼いたもので、けっこうパサパサ系。これに客がソースをかけろと言ったところ、カレーソースをかけたらめちゃくちゃ美味しい!となって人気料理となりました。
今やイギリスの国民食とも呼ばれるくらい、イギリス人に支持されている料理になっています。
星を眺めるパイ
逆に食べてみたい
StarGazy Pie。これも良くネタにされるやつ。
イワシが突き刺さった、イギリス南西部のコーンウォール地方の伝統料理。
この料理は、16世紀の地元の漁師トム・ボーコックなる伝説上の人物の伝説に由来しています。
言い伝えでは、トム・ボーコックは嵐が続き飢餓に苦しむ村を救うため嵐をモノともせず一人で出航し、獲った魚を全てパイにして村人に振る舞いました。その際に、ちゃんとパイの中に魚が入っていることを証明するために頭と尻尾を突き出す形にしたのです。
このふざけたような見た目にも、ちゃんと意味があるのです。
そもそも、魔女の宅急便でも出てくるように、イギリスではシーフードのパイは広く食べられています。
あたし、これ嫌いなのよね
イギリス王室へフィッシュパイを献上するのも伝統になっていて、ニシンのパイとかヤツメウナギのパイとかウナギと鯉のパイとかエビのパイとか、色々なフィッシュパイが800年以上献上され続けているらしいです。
キューカンバー・サンドイッチ
具がさみしい
Cucunmber Sandowich。きゅうりのサンドイッチです。
イギリスといえば、サンドイッチの発祥の地。それこそ紀元前からサンドイッチ的な料理は存在していましたが、18世紀ごろのイギリスで、トランプに熱中しているサンドイッチ伯爵を揶揄したことからパンで具を挟んだものをサンドイッチと呼ぶようになり、やがて普通名詞として世界に定着しました。
先に挙げたベーコンサンドイッチも人気ですが、このきゅうりのサンドイッチは特に英国貴族に愛されてきました。
19世紀頃、まだきゅうりがイギリスで超希少品だった時代に、貴族たちが財力を誇示するために食べるようになったのが由来。
今ではアフタヌーンティーでは欠かせない一品になっています。
パスタの缶詰
イタリア人が激怒しそうな
パスタの缶詰。天下のHeinzから出てます。
・麺がぶつ切り
・食感がブヨブヨ
・味が薄い
だいたいは肉の付け合わせとか、パンに乗せて食べる感じで、これをメインにすることはないようです。
ただ、パスタを茹でることすらめんどくさがるところに、イギリス人の食に対する姿勢が垣間見える気がします。
まとめ
お疲れ様でした。
ここまでで、主だったイギリス伝統料理はだいたい網羅できたと思います。
これでもう、皆さまはいつ何時イギリス料理の話題になっても、ある程度は語れる、もしくは知ったかぶりできる、そんな状態になっていることでしょう。
次回は歴史的な観点から、イギリス伝統料理について見ていきたいと思います。
参考文献、サイト様
食文化からイギリスを知るための55章 エリア・スタディーズ191
路地裏の大英帝国: イギリス都市生活史
英国の口福を探して
「国民の誇り」か「嘲笑の的」か、英国の伝統料理20選
イギリスのアレな食べ物3選
【英国朝食の定番】イギリス人の大好物!イングリッシュブレックファーストの肉とは~ベーコン
コメント
とんでもねえ、待ってたんだ
久々の腹筋節、これだよこれ
更新再開嬉しいぞ!
4年ぶりなのに相変わらずキレッキレでワロタ
これからもよろしくお願いします!
写真だけでも美味しくなさそうなのが伝わるってすげーべ
Xで「今年は更新したい」とコメントされていましたのでちょこちょこチェックしてました
4年もブックマーク外さずにいた甲斐がありました!
美味そうと思ったやつもイギリスじゃなくても食えそうな料理で困った
相変わらず比較対象が室伏で安心した
なるほど、どれも食欲のわかないものばかり。
人は食べ物に保守的なので異文化の食事に懐疑的ではあるけど、何を柄使ってどんな料理をするかで少しは食べてみたいって料理がどの国にもあるものだけど、イギリス料理に関してはこれって物がないな。