接着剤の魅力

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人類のテクノロジーの進歩を支えてきた存在は数多くありますが、その中でもかなり重要な位置を占めるもの。

それが、接着剤であります。

石器を組み合わせた古代の道具作りから、壊れた武器の修理、建物の補修、趣味のプラモデル製作、スマートフォンの内部構造、そして宇宙へ向かうロケットの組立。

時代も分野も越えて、モノとモノをくっつけるという技術は、常に人類の挑戦に寄り添ってきました。

今回は、一見地味だけど実はとても重要な接着剤の魅力をご紹介します。

接着剤のはじまり

今から20万年以上も昔、すでにネアンデルタール人は植物から抽出したタールを接着剤として利用していました。

石器を柄にくっつけてた

タールとは、木や植物を加熱することで得られる黒くて粘着性のある物質。

単に木を燃やすだけでは灰になっておしまいですが、酸素の供給を絶った状態で加熱すると、植物に含まれるタールがじんわりと滲み出てきます。

少なくとも6万年以上前のネアンデルタール人の遺構からは、この手順を効率的に行うための原始的な炉が発見されています。

ネアンデルタール人賢い

地面に浅い窪みを掘り、そこに植物を投入。上部を石や土で覆って密閉してから火で加熱することで、酸素が乏しい状態で植物を加熱でき、不完全燃焼(乾留)が進行するという仕組み。

驚くほど高度な技術であり、ネアンデルタール人は、目に見えない化学変化、熱と空気のバランスをなんとなく理解していたことになります。

また、これほど高度な技術があったということは、原始時代から接着に対するニーズはとても大きかったということになります。

古代 新たな接着素材

このように、原始時代から人類は接着剤をふつうに使っておりましたが、その技術は古代文明の中でさらに発展していきます。

メソポタミア文明の場合

紀元前3800年頃のチグリス・ユーフラテス河流域、現在のイラク地方では、メソポタミア文明が隆盛を極めていました。

古代最強文明

現在のイラクあたりに位置しており石油が豊富に取れる地域だったことから、天然アスファルトを接着剤として大々的に利用していました。

アスファルトは、石油の中に含まれる炭化水素などが凝縮されたもの。現代では石油を精製していった残りカスとして取り出されています。

アスファルトは温めれば柔らかくなり、冷めるとガチガチに固まるので、接着剤として非常に有能。

メソポタミア文明では、例えば工芸品なんかにも利用されていました。

古代都市ウルから出土した遺物「ウルのスタンダード」は、紀元前2700年頃の装飾された木箱ですが、貝殻や宝石を天然アスファルトで接着しています。

ウルのスタンダード(用途不明)

メソポタミア文明の流れを汲むバビロニア帝国では、建物に天然アスファルトを用いて強度を上げたり防水を施したり、さらにはレンガを敷き詰めてそれを天然アスファルトで固定するいわゆるアスファルト舗装も行っていました。

エジプト文明の場合

エジプト文明では、アスファルトだけでなく(にかわ)も利用されていました。

膠は、動物由来のゼラチンです。牛などの皮や骨を煮出してタンパク質成分を抽出し、冷やして固めたモノ。アスファルトよりも製造しやすく使いやすい。

ファラオの棺を組み立てたり、貴族向けの家具の製作、パピルスの製本、壁画を書く際の下地など幅広く使用されていたことが分かっています。

特に木や紙との相性が良く、現代でも工芸品の制作に利用されています。

アジア圏の場合

中国や日本では、アスファルト、膠に加えて(うるし)も接着剤として利用されていました。

ウルシ科ウルシ属のウルシから採取できる樹液が漆であります。

触るとかぶれます

初めはトロッとした質感ですが、固まるメカニズムはちょっと独特。

まず、漆に含まれるラッカーゼという酵素が、空気中の酸素と湿気を取り込んで活性化します。その活性化した酵素の働きで、漆の主成分ウルシオールの分子同士が結合し始めます。

この結合する反応が進むと、ウルシオール分子が網目状に結びつき、強靭な塗膜が形成されるのです。

つまり、ケミカル的に固まっているのであって、乾いて固まっているわけではありません。むしろ、湿気の多い所でないとラッカーゼが活性化せず、一向に固まりません。

このプロセスを経て、あの美しいツヤの漆器が出来上がるわけです。

beautiful

そして、漆は硬さもかなりすごいです。膠の倍以上も硬く、さらに分子構造が網目状なのでしなやかさで割れにくい。

耐久性が高いため、見た目だけでなく接着剤としても超優秀で、木製品や陶器の補修などにも大活躍していました。

なお、福井県で発見された6000年前の漆の櫛などは、まだ現役のツヤを保っています。

鳥浜貝塚で出土した櫛

接着のメカニズム

機械的接合

ここまで、アスファルトや膠、漆をご紹介してきましたが、これらは接着剤としてはわりとメカニズムが似ています。

簡単に言うと、物質の表面の凸凹に接着剤が入り込んで、固まる。そうして物理的に固定されるイメージです。アンカー効果とも呼ばれます。

セメダイン株式会社「接着基礎知識」より

それに加えて、物体同士が0.5ナノメートルくらいにまで超接近すると、ファンデルワールス力という分子同士がくっつきあう弱い力が働きます。

0.5ナノメートルは200万分の1㍉、原子2〜3個分くらい。物質同士を重ね合わせてもこんなに接近できませんが、接着剤が物質の細かい隙間にまで入り込むことでこの力を発揮させています。

化学的接合

古代からおおむね近代(19世紀くらい)までは、アスファルトとか膠とかの天然素材ベースの接着剤が主力でした。

20世紀に入り、工業的にもより性能の高い接着剤が求められるようになると、接着剤界隈の技術は大きく進歩します。

すなわち、分子と分子の間に新たな化学結合を作ることで接着するという、これまでとはまったく違う次元へと踏み込んでいきます。

代表例の一つが、1950年代に考案されたエポキシ樹脂接着剤

主剤と硬化剤を混ぜて使う

エポキシ接着剤は、主剤と硬化剤という2つの液を混ぜて使います。主剤の中にはエポキシ基という、他の分子とものすごく結合しやすい構造が含まれています。

その主剤に硬化剤を混ぜると分子の手と手がつながるような化学反応が起こり、がっちり組まれた網目のような構造を作るのです。

この構造はめちゃ強固で、ただ乾燥して硬くなるとかとは段違いの強度になります。

分子のはなし

さらにエポキシ接着剤のすごいところは、ただ固まるだけでなく、接着する素材の表面とも分子レベルで結びつくという点にあります。

ど文系の方には面倒くさい内容になりますので、歯を食いしばってください。

たとえば鉄を接着する場合。

鉄はFeという原子の純粋なかたまりですが、実際には表面は空気中の酸素(O₂)と反応して、酸化鉄(Fe₂O₃など)になります。

この酸化鉄の表面は、そのまま放っておくと空気中の水分(H₂O)とも反応して、–OH(水酸基)という小さな分子の手のような部品が、まるでヒゲのように表面に並びます。

ここでちょっと原子や分子の世界をのぞいてみましょう。

原子は、プラスの電気を持つ原子核のまわりをマイナスの電気を持つ電子が雲のように漂うことでできています。

この電子は原子のまわりにとどまっているのですが、元素ごとに電子を引っ張る力に差があります。

酸素(O)はこの力がとても強く、水素(H)とつながっていると、電子を自分の方に引き寄せます。

すると、酸素(O)のまわりはちょっとマイナスの電気を帯び、水素(H)のまわりはちょっとプラスの状態になります。

そして、エポキシ接着剤の方にも同じように–OH(水酸基)が並んでいます。

接着剤の水酸基の水素(H)がプラス

鉄表面の酸素(O)がマイナス

という関係になるので、お互いに引き寄せ合い、水素結合と呼ばれる分子レベルの握手が起きるのです。

このようにして、エポキシ接着剤は、素材の表面とただ物理的に引っかかるだけではなく、分子レベルで引き寄せ合い強い接着力を実現しているのであります。

エポキシ系以外にも、シアノアクリレート系とかアクリルウレタン系とか、化学的な結合を利用した接着剤は色々あります。

ありますが、難しくてよくわかんなくなっちゃった。ご興味あれば調べてみてください。

現代の最新接着技術

さらに現代では、単に接着するだけでなく、用途に応じて接着剤がしなやかさを持つか/硬く固まるか/透明か/耐熱かといった性能をデザインする時代になっています。

これにより、航空機の胴体や自動車のシャーシ、スマートフォンの光学部品にいたるまで、ネジやリベットの制約を受けずに自由なデザイン、小型化、サステナブルを実現しています。

たとえば、私たちが毎日手にするスマートフォン。

その中には、ネジよりも多くの場所で接着剤が使われています。用途はディスプレイとフレーム、バッテリーの固定、カメラモジュールの位置決めなど。

さらには、防水・防塵のためミクロン単位のすきまを透明で柔軟な接着剤で完璧に埋めているのです。

最近では、電気を通す導電性接着剤や、5Gノイズを吸収する電磁波シールド接着剤なども登場し、接着するだけでなく回路の一部として機能しています。

スマホに使われてるネジはせいぜい30本程度

それ以外にも、高機能な接着剤はさまざまな分野で大活躍しています。以下は一例。

体温でゲル化して止血や組織固定を行い、その後体内で自然に分解・吸収される接着剤。
https://www.nims.go.jp/press/2022/05/202205190.html

紫外線を当てると接着と剥離を切り替えられ、何度使っても接着力の落ちない接着剤。
https://www.nims.go.jp/press/2023/06/202306140.html

貝が岩に付着するメカニズムを応用した、水中接着剤。
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2022-04-14-001

まとめ

多くの皆さまは、これまで接着剤についてさほど興味など無かったのではないでしょうか。

実際、かなり地味な印象ですが、調べれば調べるほど我々の生活を支えるとても重要な技術であることが分かります。

ただかなり奥が深く、ちょっと大変すぎたのでかなり端折っちゃった(*´-`)

この記事で触れられていない魅力的な接着剤がまだまだたくさんあるので、もし興味を持った方は調べてみてね!

参考文献・サイト様
わかる! 使える! 接着入門
日本化学工業協会「化学はじめて物語」
Nitto「テープの歴史観」
【最新研究】 生物模倣の水中接着剤

コメント

  1. 名無しさん@腹筋崩壊 より:

    今回も面白かった!

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