ミサイルはどこに落ちた?
さて、当ブログは何の脈絡もなく話題がコロコロ変わります。
今回は弾道計算のお話。
以前に飛び道具の歴史を何回かに分けて記事にしましたが、戦争の歴史はそのまま飛び道具の歴史でもあります。
最初は石を投げていたものが、やがて投槍→弓→火薬兵器(銃や大砲)へと発展。飛び道具の射程距離はグングン伸びていきました。
間合いを制し、こちら側だけが一方的に攻撃することを目指していったわけですね。
しかし、射程距離が伸びれば伸びるほど、命中率が下がっていくというジレンマに陥ります。
昔は経験豊かな隊長が「ちょっとアゲてっから、仰角36°でぶっ放してみようか」みたいな雰囲気でやっていたわけですが、当然そんなんではなかなか命中しません。
そんなわけで、人類は弾道を正確に算出する必要があることに気づいたわけですね。
最も単純なケース
ちなみに、もし地球に空気がなければ、砲弾がどこに着弾するかは、割と簡単に計算できます。
高校生レベルの数学と物理の知識があれば大丈夫。
これが弾丸の軌跡を表す方程式だ!!
\(y=\tanθ・x-\frac{g}{{2v_0}^2\cos^2θ}x^2\)どうですか?
人生の早い段階で数学・物理を諦めた管理人は、すでによく分かっていません。
しかし、心を落ち着かせて眺めてみると、\(y=bx-ax^2\)という形に単純化できることに気づきます。
そう。中学校で習った2次関数なのです。
ということは、あのグラフになるわけですね!
あのグラフ
今回の場合、\(x^2\)のトコがマイナスなので、グラフにすると山なりの曲線を描くことになります。
\(θ\)という記号は角度を、\(v\)は速度を、\(g\)は重力加速度を表します。
重力加速度は地球にいる限り一定。そして弾の発射速度は、同じ大砲に同じ量の火薬を入れればほぼ一定。
ということは、「大砲の筒を向ける角度」さえ分かれば、弾がどういう軌道を描いて飛んでいくかが明確に分かるというわけです!
※ただし真空中に限る。
上の式から計算すると、弾が一番遠くに飛ばすには、どうやら45°の角度でてばよいことが分かります。らしいです。※具体的な計算過程は(゚⊿゚)シラネ。
この方程式に基づいて敵との距離(公式でいうところのy)に応じて適切に計算してあげれば、100発100中になるはず…でした。
面倒な色々
しかし実際のところ、話はそう単純ではありません。
空気抵抗
地球には空気があり、そして風があります。
なので、空気抵抗というものを考慮しなくてはなりません。
物体が音速を超えた瞬間に強烈な空気抵抗を受けるというのは、あまりに有名ですね。
マッハパンチの場合
他にも、弾の形や重さ、天気、気圧、気温、風向きなど、無数の要素が空気抵抗の度合いに影響を与えます。
したがって、上にあったみたいなシンプルな方程式に基づいて撃っても、砲弾は絶対に命中しません。絶対にです。
そして、この空気抵抗を考慮すると、計算式は複雑かつ膨大な量となるのです。
その他色々
なお、気合いと根性で空気抵抗を考慮した弾道を計算したとしても、それでもやっぱり砲弾は命中しません。
例えば、大砲の足元。
地面が岩盤なのか土なのか。それとも船の上なのか、砂漠なのか。
それによって踏ん張りが違ってくるので、砲弾の初速に影響が出ます。
あとは、
10kmで100mくらいズレる
1kmで10cmくらいズレる
みたいなのもあります。
他にもありそうだけど、まあその辺はまあいいや。
とにかくそういった全部を考慮に入れないと、正確な弾道を予測することはできないのです。
射撃表を作ろう
さて。
弾道に影響する要素が大体わかったところで、各国の軍は射撃表の作成に取り掛かるようになります。やっぱり砲弾は命中させたいもんね。
それが大体1900年代の初めくらい。第一次世界大戦の頃であります。
射撃表というのは、こんなの↓です。
これは米海軍の「Mk2 16インチ砲」のやつ
現場でチマチマと弾道計算なんてしていたら全然間に合わないので、あらかじめ計算して表にしておこうというわけ。
この表があれば、「〇〇km先に命中させるには砲の仰角を何度にすれば良いか」が一目でわかるのです。
なお、表の数字は標準的な状況を想定したものに過ぎず、実際に砲撃する際はその瞬間の状況を踏まえて補正します。
例えば空気抵抗に影響する気温や気圧、風向き。また、弾速に影響する砲身の磨耗度や火薬の温度や湿気。
射撃表にはそういった要素の補正係数までがまとめられており、砲撃には必要不可欠なものでした。
計算が間に合わない件
ところが、である。
これまで見てきた要素を考慮した弾道を算出するには、ひたすら延々と微分方程式を計算し続けるという方法しかありません。
しかし、まだ歯車式の手回し計算機しかなかった時代に、そんな計算は正直かなりキツい。
レバーをガリガリ回して計算する
「延々と計算」というのはどれくらい延々かというと、大学の数学教授みたいな人が20〜40時間かけてようやく一つの弾道が分かるというくらいの延々さ。「僕が言いたいのは永遠」と言いたくもなります。
なお、射撃表を一つ仕上げるには、色々と条件を変えて3000本の弾道を計算しなくてはなりません。ワロタ。
一人の男が手作業で射撃表を作ろうとすると、まあ1本30時間として単純計算で10年ちょいかかることになります。戦争終わっちゃいますね。
たまにメートルとヤード(1ヤード=0.9144メートル)を間違えちゃって、計算がやり直しになったこともありました。
さらに当然のことながら、新型の大砲が登場すれば弾の形状から何から全部変わっちゃうので、また新たに一から表を作らなくてはなりません。
(#ノ`Д´)ノ.:・┻┻
実際には数百人単位のチームで計算に当たっていたのですが、それでも軍の要請にはまったく間に合わない状態でした。
計算手たち
男は兵士として戦地に行ってしまっていること。そして当時は女性の方が賃金が安かったこと。
そうした理由から、この計算チームには多くの女性が採用されていたことはよく知られています。
数人の数学者が複雑な微分方程式を単純な計算に分解し、女性たちがそれをワーっと一斉に計算。そうして少しでも早く計算を行うような工夫をしていたのです。
しかし、第二次世界大戦の頃になると、次々に登場する新型の大砲の前に限界を迎え、その計算量は人間の手に負えないレベルになってしまいます。
人間の偉いところは、そんな困難な状況にもメゲないところ。
もっと早く計算をしなければならないというプレッシャーが、コンピューターの発展を促したのであります。
参考文献、サイト様
桜と錨の海軍砲術学校
コメント (43件)
新シリーズはじまったな。ノイマンやエニアックの話になるんだろうが、実際に撃って(3000発なくても補完できそう)測量、補正分も実弾射撃、あとはHE弾の有効加害範囲頼みの方が早そうというか、実際計算式の確認のために撃ってたんだろうな。すぐにミサイルの時代になっちまう訳だが。
20年くらい前の東工大の後期試験で、「いろいろ考慮してミサイルの弾道予測式を導出しろ」みたいなフワッとした設問だけのときがあったのを思い出した
人類が人類足る所以は石や槍の投擲で三次元的に物事を考えるようになり知能が進化していったと言う説もあるぐらいなので弾道計算は人類の史上命題なのではないだろうか
お久しぶりです!
ミサイルでてこねぇ!
※1
大穴で自由落下からレーダー赤外線テレビ慣性航法レーザーGPS誘導の話になっていくと予想
ミサイルだしロケットやジェットエンジンの各種機構の長所と短所でもいけるか
ロケットvsラムジェット!
更新乙です!相変わらず内容も面白いし何より読みやすい文章でスラスラ読めるから凄い
ここしばらくのシリーズものも面白いけどたまには昔の記事みたいに1~2コラムで完結する記事を書いてもいいのよ?題材探すのが大変そうだから難しそうだけどね
100発100中の正恩に謝れ
最初に弾道計算やったのはナポレオンの時代あたりからだっけ
結構な歴史のある学問なんだな
※8
精度はともかく弾道計算自体はニュートン力学が出来てすぐに行われてるよ。
古代イスラエル王国の年代に関する新しい発見
ttp://karapaia.com/archives/52259161.html
数学は軍事なんだなー。
貨幣ネタで仮想通貨まで進もうとしたけど、仮想通貨暴落&低迷で億り人になれずやる気をなくしたに0.001ビットコイン
新たなシリーズ始まりましたね
楽しみにしてます
コリオリ力説明するGIFがそれじゃない。
高緯度と低緯度で働く自転方向の慣性力の違いから弾道が北に向かって撃つと東遷、南に向かって撃つと西遷する現象
ミサイルちゃうやんけけぇぇぇぇ(白目
コリオリ力は何も地球だけの話じゃないから間違いじゃないのでは?
てか件のGIFはWikipediaにも使われてたぞ
直接は関係ないかもだけど、カール・シュヴァルツシルトは
第1次大戦に砲兵技術将校として従軍していた際、
砲兵将校なんて弾道計算以外仕事がなくて暇だったから、
暇つぶしに関係ない計算やって遊んでたところ、偶然
ブラックホールの存在を証明しちゃったとか
「桃の種」
奈良県纏向遺跡で見つかった桃の種が 放射性炭素測定で西暦135年~230年と判明した
邪馬台国 卑弥呼の時代と重なる可能性が高い(朝日新聞)
この方程式に基づいて敵との距離(公式でいうところのy)
は誤植かな
yは高さなんだから敵との距離はxだよ
シュバルツシルト半径がそんな経緯で算出されたのか、ドイツ兵の学力どうなってんの!?と思ったら、むしろ超優秀な天文学者の教授が何故か40歳超えて従軍してた事の方が異常っぽいな。まあ前線以外は存外暇かつ給料出て狙い目なんかもしれんが。
元砲兵のワイ歓喜な新シリーズ
実際の射撃では射表に則った射撃諸元で試射をして、
実際の弾着点とのズレを修正量として再計算して効力射に使用する感じが一般的(全てではない)
誘導砲弾だとどんな感じになるのかね…
※21 着弾観測の責任が重大だと思うんだが、試射では観測しやすいような弾(例えば重量同じで有色スモークが出るだけとか)を使ったりするの?それとも距離と音から「あの弾が落ちたのがあそこ」みたいに分かるものなの?すげーと思うのは「着弾から逆算して反撃が来るから短時間に火力集中させるため異なる曲率になるように装薬や発射角調整して同時に届くようにする」とかある事。まあ多連砲化した自走砲とかもあるらしいが。
間接照準の特徴(欠点)は、
入力した諸元で何処に飛んでいくのか分からず、(実は直接照準でも同様だけど)
砲側からは目標が見えないので弾着点の観測者が必要で、さらにその射撃の弾数が少ないと本当にその弾着点に落ちるのかわからない
このもどかしさを体験してみたければ、自分の視線より高いパーティションの向こう側の的を狙って、
ガムテープとかの粘着面を外側にして丸めたボール何個か投げて、目標周囲に安定して落とせるようになるまでやってみると良い
ただし普通の職場でやると「間接照準の体感です!」と言っても通じないので他の人の目に要注意
>>22
普通の弾でも炸裂時の火光が出るから問題なし
夜間とかは地形が見えないので空中炸裂(曳火射撃みたいに)させて試射したりする
同一砲による同時弾着は射距離が長くなると、弾道の選択肢が狭くなって難しくなるので最近(ワイ基準なので一昔前)は廃れぎみ?
射撃指揮の職人芸の紹介みたいな感じで10榴の3発同時弾着の話を聞いたことがある
99式HSPの射程と射撃諸元算定器の性能なら実用的なレベルで可能かもね
迫撃砲なら土煙上がるし、艦砲なら水柱上がるから高いとことか飛行機から見れば余裕やね
お舟なんかだと自分も相手も動いてるし遠距離だから風に流されまくるし大変だけど
>>19
同じこと思いました xですよね
>24 詳しくありがとうございます、極力遠くから炸薬目一杯で撃ちたいとなると弾道の選択肢は限られるんですね。99式、かっこもいいけど、そんな高性能なんですか、他のもアップデートはするんだろうけど。りゅう弾って基本的に空中炸裂だと勝手に思っていたんですが(その方が破片範囲広いし)、直撃狙いもするんですね。
>25 上とも被るんだけど、例えば迫撃砲数門を違う場所から同時弾着じゃないにせよ集中して撃ち込むと「どの砲のがどこ」ってのが混乱すると思うのよ。発射音だけ聞いても弾道違えばどっちが先かわからん訳だし、水上艦なんかも多連砲を複数の砲塔から撃ち込んでいるイメージだし。まあ観測結果を指揮所が1度紐付けしなおすんかな。アトミックキャノンぐらい加害範囲が広ければ・・・
※27
着発か曳火かは目標と目的によりますね
掩体みたいに殻を被っている目標には破片じゃ力不足
また、破片範囲が広いのはいいことばかりじゃなくて、味方部隊の近くに落とさないといけない場合はわざと着発にしたりします
「日本海海戦」 ノビコフ・プリボイ著 「ツシマ」より抜粋
2400mの距離から三笠めがけて火蓋が切られた。砲弾はみんな三笠を飛び越した。味方の他の艦も砲門をひらいた。集中射撃の効果が否定的だったことはすぐ判明した。各艦から撃ちだした砲弾のあげた水煙は、おたがいにごちゃごちゃになった。三笠のまわりの海面には、あちこち水柱が湧きあがってどれが自分の砲の水柱か判別して、照準を訂正することのできた艦は一つもなかった。
これにたいする敵側の応射は2,3分たってから行われた。これで日本艦隊が訓練をつんで、はるかに優れているということが判った。試射は一艦がおこなって、残りの艦に信号で距離を知らせた。すると、つづいて一斉射撃が行われ、その命中率はもの凄かった
日本海海戦の聯合艦隊による司令部の集中統制は否定されたね
艦船はお互いに動いているから試射の結果を司令部が受け取って各砲に伝えたら距離が既に違っているんだよね
各砲毎に撃ってあれだけ命中したのは訓練が凄まじかった証拠だよね
>28 何度もありがとうございます。「味方の近くに落とさなければいけない場合」というのが、やっぱり素人だと実戦を想定出来てないんだなと痛感しました。映画なんかだと包囲されてからの支援要請で自軍誤射という展開はありがちですが、小銃の交戦距離で要請するなって話ですよね。
>29 ここは詳しい人達が多くて為になります、戦争資料研究家さんかなんかですか?まさに疑問のど真ん中の資料でした。日本海海戦時の交戦距離ってたった2400mなんですね、アームストロング砲の有効射程以下でも結局当たらないんでしょうか。
>30 まあ敗戦した側が責任を逃れるために敵を必要以上に評価する事もあるし、逆に勝った側は勝因は秘匿するから事実というのは分かりづらいかもね。
観測による間接射撃と言えば旅順攻略の203高地を思い出すのだが、今のウィキだと「別に203じゃなくて良かった」「砲撃するまでもなく海戦で艦隊は無力化されてた」「そして砲撃そのもので沈んだ艦船はなかった」とさんざんで笑った。俺の感動を返せwww
ノイマン型コンピュータ(ノイマンが作ったとは言ってない)
※31
しまった口調がブレてた
友軍相撃と誤射はいつの世も無くならないものなんやな(将来も多分)
面白そうな反応をしてくれて嬉しいので、砲兵小話を一つ
自分の某学校学生時代の話やが、榴弾砲による効力射の弾着地点を近距離(といっても数百mくらいか?)から撮影した動画を大勢の学生がみることがあったんよ
ある学生の一団は弾着の様子を評価するようにウムウムと頷き、
またある一団は、「すげえ!」となんか嬉しそう
さらにほかの一団は「ほーん、で?」と興味なさそうな顔
最後の最多数のグループは何故か死にそうなうめき声上げたり、顔を覆ってしまったり…
さてそれぞれの職種は何でしょう?(答えはメルアド、解説は必要があれば)
なお、3つ目のアホは火力で制圧されていない陣地からのミサイルで乙る模様(私怨)
これで思い出して弓関連の記事を読み直してきたんだけど、
長弓とクロスボウの記事が無くなってたんだけどもしかして消しちゃった?
最初から無かったんだっけ?
なんかイギリスは国主導でロングボウを庶民に広めていてみたいな記事を覚えているんだけど…
読みたかったから残念。復活できないかな?
最近は1発撃つとカウンターが飛んでくるので、おちおち2発目をができないんですよね。
※35
核でもない限りそんな即座にカウンターは来ないやろ
今も昔も迫撃砲みたいな無誘導砲弾は弾着みて修正するで
参考にしたっていうサイトがかなりのクオリティのビックリ
いいサイトを教えてくれたここの管理人に感謝
新シリーズ始まってたのか
ここの武器シリーズは特に好きだから、続編期待しておりますぞ
結局は撃てる数の方を増やした方がイイって事なんやろか
ボクシング比あhンといいやっぱりきもいタイトルのきおいサイトって肝とあがじのkねくらきもでぶsがうんえいしてんだなきもちわる
偉そうな間違えだらけおrンのくそが維持糞あふぃごき部r豚いきもたおしねばいいのい
レイアウトがすごく変
トップにうっすい顔の変なイラスト載せてた頃の方がマシ
「世界で始めてコンピュータが作られたときの目的は弾道計算のため」ってのは学校で習ったけど弾道計算がこんなに大変だとは教わらなかったな
たぶんそこを説明するとこの記事のごとくコンピュータの話にたどり着く前に授業が終わっちゃうからだな
日本海軍の専売特許のイメージがある、戦艦主砲による対空射撃の射表とは渋い。
アイオワ級が主砲で対空戦闘しているシーンはなかなか想像できないな。ミッドウェイかマリアナあたりで米空母が完敗して基地航空隊も壊滅し、それでもなお水上艦で戦わなければならない状況にならないと・・・