激動の2014年も終わりに差し迫った12月のある日、SFオタクと軍事オタクの度肝を抜く動画が公開されました。
それは、Laser Weapon System(LaWS)の発射試験の動画です。
まずは、こちらをどうぞ。
Laser Weapon Systemとは何かといいますと、アメリカ海軍が6年の歳月と4000万ドルもの予算を注ぎ込んで開発した、夢の「指向性エネルギー兵器」であります。
指向性エネルギーというのは、飛翔体(弾やらミサイル弾頭)ではなく、エネルギーそのものを直接照射することにより、目標の物体に損傷を与えることを目的とした兵器です。
つまり、例えば銃でしたら、
↓
そのエネルギーで弾を飛ばす
↓
その弾が命中
↓
ダメージが発生!
という過程を経るわけです。
一方のLaWSの場合、
↓
ダメージが発生!
という非常にスマートでエネルギーロスが少ない兵器となります。
実際、今回公開されたLaWSは、1発100円という超低コスト。ダイソーレベルです。
テロリスト御用達のRPG-7ですら1発数千円。ミサイルになると1発数千万円ですので、これはお得です。
LaWSの開発コストまで含めると、ゴニョゴニョ…
また、LaWSの利点はコストだけではありません。
例えば、現代の非対称戦争においては、テロリストを民間人ごと木っ端微塵になんてケースも起こり得ます。そこで、「テロリストが持つRPG-7の弾頭のみ狙って爆発させる」といった、繊細な攻撃が可能です。
そう、LaWSならね。
レーザー兵器を作る理由が、低コスト・低出力だからというのは、どんなSF作家も思い浮かばなかった未来ですが、まぁ小松左京も「まさか人類が月の到着するシーンをまーじゃんしながら見るとは思わなかった」と述べていますので、未来予測とはかくも難しいものでなのであります。
殺人光線
ところで、指向性エネルギー兵器と聞くと、今回のレーザー砲のように超高度なテクノロジーの塊で最先端兵器!というイメージを持ってしまいがちですが、実はあの国もビーム兵器を開発していました。
その国とはそう、ナチス・ドイツです。
「ナチス・ドイツの超兵器」
この単語にときめかない方はいないでしょう。
ナチス・ドイツは世界初のジェット戦闘機Me262、ロンドンを音もなく襲った弾道ミサイルV-2、史上最大の列車砲「ドーラ」など、ロマンに溢れる超兵器の宝庫であります。
Me262
V-2
ドーラ
なお、ドイツ語で超兵器のことを「ヴンダーヴァッフェ(Wunderwaffe)」と言います。これまた無駄にかっこE。
そのヴンダーヴァッフェ開発計画には、もちろん「指向性エネルギー兵器」も開発計画に含まれております。
その計画の名前はなんと!
わかっていません!残念ながら
物の本によれば、X線ビーム兵器を開発し、実用一歩手前だったとあります。俗に「殺人光線」と言われているのですが、計画の全貌が分かる資料が発見されていないのです。しかし、ナチスの軍需大臣が、戦後獄中で記述した手記『第三帝国の神殿にて』では、「我が国は殺人光線を開発していると聞いた」とあります。
また、アメリカ軍は、この殺人光線の開発に必要な電子加速装置を、1945年4月14日に回収しております。実用化はされませんでしたが、計画があった可能性は高いと言われています。
ところで、この兵器、「殺人光線」などという仰々しい通り名ではありますが、実際のところは高射砲の射程外を飛んでくる爆撃機を目標とする兵器。それも、エンジンの点火プラグを不調にして墜落、もしくは高射砲の射程内に降下させることを目的にしたささやかなもの。我々が期待してしまう、人間が蒸発するとか、そういう感じのものではありませんでした。
音波砲
しかし、ナチス・ドイツのすごいところは、指向性エネルギー兵器の開発を1種類に留めなかったところです。殺人光線など序の口なのです。
御覧ください、その勇姿を!
デデェーン
これぞ、ナチス・ドイツの誇る秘密兵器「音波砲」です。
単なるパラボラアンテナのお化けに見えますが、実際、パラボラアンテナのお化けです。
パラボラアンテナのお化けというと、敵機のエンジン音などを聞き取って警戒態勢を取る「空中集音器」などは実際にありました。
旧日本軍の空中聴音機。
調子が良ければ10km先まで探知できた。
しかし、ナチスのパラボラアンテナのお化けは、れっきとした対空兵器として開発されたものです。
その仕組みは、メタンと酸素の混合物を燃焼室に入れ、断続的に爆発させるというもの。その爆発音が共鳴し合い、音波ビームを発生させるのです。
その音波ビームを向けられた人間は、50メートル先では30秒もあれば死亡し、約300メートルでも平衡感覚が狂い耐え難い苦痛を感じるほどのものだったと言われています。
なお、ドイツを空爆しまくったB-17は高度1万メートルを飛行可能ですので、特に役に立ちません。
地上兵器として転用しようにも、直径3m以上もの大きさを持つパラボラアンテナのお化けを持ち運んで、300mの先の敵に不快感を与えるだけというのはちょっと…。
たぶん、こっちの方が強い
当時の戦争は殺し合いですので、相手に怪我させず無力化する意味はありません。そんなものを使うくらいなら、大砲打ち込んだ方が、どれほど効率的か。
というわけで、「音波砲」は対空兵器としても地上兵器としても使いようがなく、戦争末期に米軍に捕獲されるまで実践に使用されることはありませんでした。
ただ、この音波砲に着想を得たのかどうかは不明ですが、2000年台に入ってから非殺傷兵器として音響装置が開発され、暴徒鎮圧、海賊対策などで利用されています。
しかし、1度や2度の失敗でめげるナチス・ドイツではありません。更に奥の手をひとつ隠していたのです!!
空気砲
ナチス・ドイツの奥の手。それが、「風力砲」であります!
水素と酸素の化合物を爆発させ、その風圧で航空の戦闘機を撃ち落す!つまりは、空気砲の一種であります。
それでは、その画像をご覧ください。見よ、この偉大なる勇姿を!
デッデデーン
…。
昔の汲み取り式トイレにあった換気煙突を彷彿とさせるビジュアルです。
しかしまぁ見た目はともあれ、この巨大な装置、下のパイプ部分で水素と酸素の化合物を爆発させ、上のノズル部分から圧縮空気を打ち出す仕組みでした。
実験では、180メートル先の厚さ25mm角の木材を軽くへし折る、恐ろしい破壊力を発揮しました。
なお、当時の爆撃機は上空1万メートルをラクラクと飛んできます。
この風力砲は、実際に押し寄せる連合軍の爆撃機に向かって使用されたようですが、特になんの戦果も挙げておりません。
当時の本にも「面白い実験であったが、全く実用的でなかった」と記されています。
なぜこんな秘密兵器を作ったのか
さて、ナチス・ドイツの秘密兵器(主に対空用)を紹介したわけですが、なぜこのような兵器が失敗したとはいえ開発されたのでしょうか。
ドイツは優秀な対空砲を持っていましたし、世界初の実用ジェット戦闘機Me262も開発していました。
特にMe262は爆撃機ハンターとして有能で、Me262が1機損失するまでに敵の爆撃機4機を撃墜したというデータが残っています。
しかし、圧倒的に数が足りなかったのです。
戦争末期、空軍は燃料・資源不足でほとんど飛ぶこともままならず、また、高射砲では届かない上空から爆撃されていました。そうした状況では、少数のMe262では焼け石に水。安価で資源を消費せず、連合軍の爆撃機に対して有効な威力を持つ兵器を、喉から手が出るほど欲しがっていたわけです。
その結果が、この哀しい兵器群なのです。
しかし、仮にこれらの兵器が実用化されたとしても、大量の爆撃機を生産し続けた連合軍(というか、米軍)に果たしてどこまで戦うことが出来たのか。
爆撃機の大量生産のようす
「戦いは数だよ、兄貴!」という言葉の重みを深く噛みしめる次第であります。