今を去ること半世紀以上前。
ネイチャーの1959年9月号に、あるユニークな科学論文が掲載されました。タイトルは、『星間交信の探索』。
ネイチャーといえば、世界で最も権威のある学術誌の一つ。科学者が読むような、本格的な科学雑誌です。
論文の要旨
この論文の主張を簡単に言うと、
↓
そのときに使う手段として、もっとも可能性が高いのは、遠くまで飛ばすことの出来る「電波」である。
↓
その電波の周波数は、宇宙でもっとも多く存在する水素原子に関わる数値を選ぶのではないか。
水素原子は、周波数1420メガヘルツの電波を放射する。
↓
だとすると、宇宙からの信号は1420メガヘルツで送られてくるはずだろう。
また、この狭帯域の電波は自然現象によっては放射されないから、この信号は目立つはずだ。
この考察から、「地球外知的生命体探査」(略称:SETI)というプロジェクトが始まっていきました。
具体的に何をするかというと、世界各地に電波望遠鏡を設置して受信した電波を解析する、という地味~な作業です。
ところが、この論文の発表から18年後、まさに予言したとおりの信号が、地球に届いたのでした。
Wow!
1977年8月15日、オハイオ州立大学にあるパーキンズ天文台の2対のホーンを持つ巨大な電波望遠鏡「ビッグイヤー」(大耳)は、いつものように宇宙から飛んで来る電波を受信していました。
ビッグイヤー電波望遠鏡。
宇宙からの電波を、奥の反射鏡→手前の反射鏡→ホーンという具合に反射させて受信する。
この望遠鏡は、地球の自転を利用して観測する方向を変える仕組みで、天球上のある一点を72秒間ほど観測できます。
そのため、もしも地球外から発信された信号が観測された場合は、36秒の間に次第に強まり、ピークに達した後、36秒で消失していくパターンを持つだろうと予測されていました。
午後11時16分、ビッグイヤーは不可解な
信号を受信し、技師によってプリントアウトされました。
1977年当時は、コンピュータのハードディスクの容量が1メガバイトしかない時代。受信した電波のデータは、プリントアウトしたのちに、消去されていました。
プリントアウトされたこの信号のデータは、天文学者ジェリー・エーマンの元に届けられました。
Wow!
信号を見たジェリー・エーマンが、驚きのあまり、余白に「Wow!」と書き込んだのが、Wow!シグナルの語源です。
この文字と数字の羅列は、電磁波信号の強さを示します。
電磁波の強さは1-9の数字と、それより強いものはアルファベットで記されます。10はA、11はB、12はC…と続きます。
エーマンが驚いたのは、「6EQUJ5」の部分。「6EQUJ5」というのは、電磁波が急激に強くなり、また消えていったこと、すなわちある一点から強い電波が飛んできている事を示していたのです。
6→14→26→30→19→5
U(=30)と記録されるほど、強い信号を受信したことは、これまでにはありませんでした。
しかもこれは、『星間交信の探索』で地球外生命体が使用しているであろうと予測されていた、1420MHzの信号。「Wow!」と書いたエーマンの気持ちがよく分かります。
この一報を受け、ビッグイヤーを始めとした各国の電波望遠鏡で、この信号の再観測が試みられました。が、その結果は残念ながらことごとく失敗に終わりました。
その信号は、後にも先にもたった一度だけだったのです。
エーマンは、この信号の発信源を調べ、射手座のM55という球状星団の北西あたりから来ている事が分かりました。
M55
しかし、ビッグイヤーの性能の限界もあり、正確な位置をバチッと特定するのはほぼ不可能となっています。
Wow!シグナルの正体は?
エーマンたちは、Wow!シグナルはなんらかの人工的なものではないかと疑いました。
人工衛星や飛行機の可能性、そうしたものが地球上の信号と干渉し合って作りだした可能性などなど。
ですが、1420MHzという周波数は、天文学上の研究のために地上での使用を禁じられている帯域で、人工物からのものである可能性はきわめて低い事が分かりました。
しかし、その後は大きな進展もなく、地球外生命体の探索などバカバカしいとする風潮が強まり、ビッグイヤーも1988年に取り壊され、いまではゴルフ場へと姿を変えてしまったのです。
ところで、もしWow!シグナルが地球外生命体からの信号だったとすると、なぜその後一度も来ないのでしょうか。
実際の地球外生命体の気持ちは分かりませんが、実は過去に人類が送信したメッセージも、基本的には単発ものなのです。
アレシボ・メッセージ
地球外生命体へメッセージを送信する試みは、アクティブSETIといいます。最初の試みは、1974年のこと。
NASAが、プエルトリコにあるアレシボ電波天文台から、25,000光年彼方の球状星団M13に向けてメッセージを送信しました。
数万もの恒星が丸く密集したM13球状星団
送られたメッセージは、1679桁の2進数の文字列。
この1679という数字は、23と73という二つの素数をかけたもの。23 × 73 または 73 × 23 の2通りにしか素因数分解出来ません。
そして、この1679桁の0と1を、23行73列に並べ替えると、次のような画像となります。
アレシボ・メッセージ
ぱっと見は全く意味不明な画像ですが、実はこの中には色々な情報が詰まっています。
数字
DNAの構成元素
ヌクレオチド
DNAの二重螺旋
人間
太陽系
望遠鏡
我々がこれを見て、かろうじて雰囲気がわかるのは「人間」くらいでしょうか…。
解説無しでこれを解読するのはかなり難しそうですが、相手は宇宙人だから大丈夫と信じたいところです。
パイオニア探査機の金属板
1972年に打ち上げられた無人探査機パイオニア10号と、1973年の11号。
パイオニア10号
この2基には、地球外生命体に宛てたメッセージが刻まれた金属板が取り付けられています。
この限られたスペースの中に刻まれた情報は次の通り。
地球人の情報
人間には「男」と「女」がいること。そして、友好を示す意味と、手を動かせるという意味で、男性が片手を挙げています。
バックにはパイオニアの外形が書かれ、地球人のだいたいの大きさがわかるようにしてあります。
なお、男女が裸というデザインは色々と議論を呼び、「NASAは血税を使って宇宙にポルノを送った」等という批判もありました。
14個のパルサーと銀河系中心に対する太陽の位置
中心から放射状に延びる線は、太陽から見た14個のパルサー(パルス状に光や電波を出す天体)の距離と、パルスの周期を示します。
このうちの幾つかのパルサーを特定できれば、太陽の位置が分かるようになっています。
また、右方向の線は、人間の後ろにまで延びていますが、これは銀河系中心から太陽までの距離を示しています。
太陽系
太陽系の惑星と、太陽からの距離。木星を通過して太陽系を脱出する小さなパイオニアも描かれています。
このように、この金属板には、一定の技術水準を持つ生物が見れば、「地球の位置」や「人間の姿形」か分かるようになっています。
が、実際には前情報なしにこの図柄を見て、含まれた内容を全て読み取ることの出来た研究者はほとんどいなかったようです。
同じ地球人ですらそうなので、宇宙人ならもっと解読が難しいのでは、とも言われています。
ボイジャーのゴールデンレコード
レコード
ジャケット
1977年に打ち上げられたボイジャー1号と2号に搭載されたレコード。
ジャケットには例のごとく、パルサーを利用した太陽系の位置と、レコードを再生する為の方法が書かれています。
このレコードに収録されている情報は、
- 115枚の画像
- 波、風、雷、鳥の鳴き声といった、多くの自然音
- 様々な文化や時代の音楽日本からは、尺八の演奏が選ばれています
- 55種類の言語のあいさつ
さらに、これを発見した地球外生命体への挨拶として、
私たちの死後も、本記録だけは生き延び、皆さんの元に届くことで、皆さんの想像の中に再び私たちがよみがえることができれば幸いです。
アメリカ合衆国大統領・ジミー・カーター
というメッセージも収録されています。
時間のスケール
ボイジャーやパイオニアは、特にどこかの星を目指しているわけではありません。
太陽系の各惑星の観測調査は既に終え、ボイジャー1号がついこの間やっと太陽系を脱出しました。
ボイジャー1号
物質的なメッセージを送ろうとしても、太陽系脱出ですら35年もかかるレベルです。
地球外生命体がいそうな場所まで到達するのは100万年単位の時間がかかるかもしれません。
一方、電波で送信するタイプの「アレシボ・メッセージ」が目的のM13に到達するのが25,934年後。
電波はほぼ光の速さで進むので、ボイジャーとかとは段違いのスピードです。
実際、地球外生命体へのメッセージは、その後も何度か送信されています。
しかし、その内容はバラバラ。送信時間も短く、受信してもらえる可能性は奇跡に近いものです。
宇宙の時間のスケールから見たら、信号を受信できるタイミングはほんの僅な瞬間です。相手の文明の発達度合いが100年ズレたらもう受信してもらえないかもしれません。
現に、地球だって観測スタートからまだたったの50年ちょいです。
ずっと送りっぱなしにすればいいじゃないかという意見もあるかもしれません。
が、意味がないかもしれないものに労力を費やし続けるのは、かなりエネルギーがいるものです。
なお、幸運にもメッセージが受信され、お返事が送信されたとしても、地球に届くのはさらに25,974年後になります。往復5万年かかる文通です。
そこで、我々の持つ、 化石になる為のコツの知識が活きてくるわけですね。のんびり待ちましょう。