我々の嫁についての話ではありません。
人類の飽くなき挑戦についての話です。
2次元(平面)から3次元(立体)へ。
これは遥か昔から人類が挑んできたテーマの一つであります。
つまり、「高さ」への挑戦です。
古くは、旧約聖書に書かれる「バベルの塔」。
世界中は同じ言葉を使って、同じように話していた。
東の方から移動してきた人々は、シンアルの地に平野を見つけ、そこに住み着いた。
彼らは、「れんがを作り、それをよく焼こう」と話し合った。 石の代わりにれんがを、しっくいの代わりにアスファルトを用いた。
彼らは、「さあ、天まで届く塔のある町を建て、有名になろう。そして、全地に散らされることのないようにしよう」と言った。
主は降って来て、人の子らが建てた、塔のあるこの町を見て言われた。
「彼らは一つの民で、皆一つの言葉を話しているから、このようなことをし始めたのだ。これでは、彼らが何を企てても、妨げることはできない。
我々は降って行って、直ちに彼らの言葉を混乱させ、互いの言葉を聞き分けられぬようにしてしまおう。」
主は彼らをそこから全地に散らされたので、彼らはこの町の建設をやめた。
こういうわけで、この町の名はバベルと呼ばれた。
主がそこで全地の言葉を混乱させ、また、主がそこから彼らを全地に散らされたからである。
創世記11:1-9
動機
高さへの挑戦の原初の動機は、バベルの塔のエピソードにあるように、神に近づきたいという宗教的なものでした。
古代の高層建築物で最大のものは、147mの高さを誇るエジプトのクフ王のピラミッドです。
これは、14世紀に入るまで、実に4000年以上、世界で一番高い建物でした。
ピラミッドが王の墓であったかはともかく、何らかの宗教的儀式に使われたの間違いなく、これも天へと昇る(神に近づく)願望を形にしたものと言えるでしょう。
宗教の時代
このピラミッドの高さを破ったのは、イギリスのリンカン大聖堂です。
1307年に中央の塔のてっぺんに尖塔がくっつけられ、ややセコい方法ながらも159.7mを記録し、見事世界一の座を勝ち取りました。
しかし、1549年に嵐が吹いて尖塔が吹っ飛び、230年守った世界一の座を失ってしまいます。
現在のリンカン大聖堂
結果的に世界一となったのは、エストニアにある聖オーラフ教会。高さは159mで、ちょっぴり記録は後退します。
聖オーラフ教会
さらに、この聖オーラフ教会も、1625年に落雷で先っぽが崩壊。
次の高さ世界一はドイツの聖マリア教会となります。高さ151m。
聖マリア教会
1647年、なんと聖マリア教会も、落雷で先っぽが崩壊してしまいます。
次の一位はドイツのストラスブール大聖堂で、高さ142m。
ストラスブール大聖堂
と思いきや、よく考えるとすでにクフ王のピラミッドの方が高いという事実。
まるで神の怒りに触れたバベルの塔の如く、人類の挑戦は振り出しに戻ってしまいました。
1874年、人類は再び立ち上がります。
ドイツに建設された聖ニコライ教会は、高さ147mとなり、まずはクフ王のピラミッドに並びます。
聖ニコライ教会
続いて1876年、フランスで高さ151mのルーアン大聖堂が建設されます。
ルーアン大聖堂
さらに1880年にはドイツで高さ157mのケルン大聖堂が完成します。
ケルン大聖堂。今でもゴシック建築では世界一の大きさ。
しかし、ここまで来ても、まだ最初のリンカン大聖堂の159.7mという記録は抜けません。1307年に作られた建築物は、実に600年近く歴史に輝いていたのです。
産業の時代
宗教的建築物が世界一の高さを譲ったのは1884年。アメリカのワシントン記念塔(高さ169m)でした。
アメリカ建国の父を讃える記念碑
この巨大なモニュメントは、過去最高の高さを持つ非宗教建築物でした。
ニーチェがその著作で「神は死んだ」と書いたのが1882年。
まさに、宗教的価値観から科学的価値観に移り変わっていった時代の象徴と言えます。
そうして、以降の高層建築物は、より実用的、より機能的な用途のものとなっていきます。
1889年、万博に合わせてフランスで建設されたエッフェル塔は、そんな新しい時代を象徴する建築物でした。
華美な装飾を伴った石造りの建物がスタンダードであった当時、装飾的要素を一切排除し、産業と技術の象徴である鉄を剥き出しにしたデザイン。
当時の人々の目には異物として映ったようです。
文学者のモーパッサンは、
「ここがパリの中で、いまいましいエッフェル塔を見なくてすむ唯一の場所だから」
という理由でエッフェル塔1階のレストランによく通っていたとも伝えられています。
バトル・オブ・マンハッタン
次の戦いの舞台はマンハッタンに移ります。
20世紀に入ってウォール街は世界金融の中心となり、イケイケムードが漂っていました。
そんな風潮の中、企業の価値とパワーを示す方法として、超高層建築が物凄く流行りました。
過剰に建設された高層ビル群はそのまま不安の裏返しとも見て取れそうですが、摩天楼のあの景色はそういった時代の産物なわけです。
最初の勝者は、クライスラービルでした。
1930年、クライスラービルは、同時に建設中だったウォール街のバンクオブマンハッタンビルと世界一高いビルの座を競っていました。
当初から情報戦の様相を呈していたこの勝負。
双方が設計変更を駆使して予定の高さを隠しながら、建設が進められていました。
いざ完成してみると、クライスラービルの高さ283 mに対し、バンクオブマンハッタンビルは高さ284 m。
勝負は決まったと思われたその時。
クライスラービルの設計者が掟破りの尖塔追加を敢行。
クライスラービルの高さは36 m追加され、合計319mとなり、エッフェル塔を抜いて世界一高い建築物の座に着きました。
負けてしまったバンクオブマンハッタンビル
しかし、翌年には449mの高さを誇るエンパイアステートビルが完成し、あっという間に抜かれます。
エンパイアステートビル
エンパイアステートビル工事中の、有名なタマヒュン画像
電波塔の時代
1954年以降、高さ世界一の主役は電波塔に移ります。
あまり色気のない建物なので割愛しますが、世界各地の電波塔はどんどんその高度を増していき、1974年には646mにまで達します。
646mに達した塔は、ポーランドのワルシャワラジオ塔でした。
この電波塔は、スカイツリーのような自立式ではなく、3方向からワイヤーで引っ張ってバランスを取るタイプの塔でした。
そのワイヤーの老朽化により交換作業をした際、なんらかのミスが起き、崩壊してしまいます。
残骸
今も残るワイヤーの土台
2014年5月現在では、世界で一番高い建物は、ドバイのブルジュ・ハリファで、高さ828m。
現在も、世界各地でブルジュ・ハリファを越えるビルが計画されており、記録はまだまだ伸びていくでしょう。
ビル以外の3次元
実は平面から高さ方向へ転換を図るのは、ビルだけではありません。
最近よく耳にする方も多いと思いますが、垂直農業という概念があります。
人類が農耕を始めて以来、畑はずーっと平らな地面、すなわち2次元で完結してきました。
平面のみの活用では色々不便があります。
不便なこと①
畑が広くなればなるほど、移動が大変。
不便なこと②
土地の面積=生産量なので、田舎でしか大規模農業が出来ない。
不便なこと③
田舎でしか農業が出来ないので、たくさん消費する都会に輸送するコストがかかる
不便なこと④
今のペースで人口が増えると、土地が足りない
というわけで、発想の転換の一つが、3次元への農業展開なのです。
イメージパースは、すごく未来的です。
極端な話、10階建ての垂直農業なら、土地を10倍有効に活用するのと同じ意味になりますよね。
現在、けっこうマジで垂直農業は研究されていて、シンガポールでは実際に実用化されています。
高さ9mの棚がグルグル回り、均一に日光が当たる仕組み
国土が狭いシンガポールなどには非常に適したものです。
次は何が3次元へ展開していくのか、楽しみですね!