さて、前々回から、飛び道具について書いてまいりましたが、今回も続きます。
今回のテーマは「弓」。
投槍器のシェアを根こそぎ奪い、人類史の大半において圧倒的なトップシェアを誇った有能兵器であります。
しかしながら、最初に言っておかなくてはなりませんが、弓矢の起源についてはいまいちよく分かっていません。
いちおう、出土した石の鏃や、洞窟に残る壁画から判断するに、1万~1万2000年前には発明されていた、というのは確実視されています。
スペイン東部のカステリョンに残る壁画。BC10,000年頃
ただ、弓矢はオーストラリアを除く世界中の大陸で使用されており、これが同時期に各地で別々に発明されたのか、それとも一つの地域で発明されたものが伝播したのか、についても詳しくはわかっていません。
弓を発明するまで
というわけで、弓の起源についてはよく分からんわけですが、それでも推測は可能です。
前回扱った投槍はめっちゃ威力がありますので、マンモスに代表される「大型哺乳類」を狩るのに最適な兵器でした。
しかし、今から7万年前、地球は最終氷期、いわゆる氷河期に突入しました。
マンモスも凍る
地球全体の平均気温は今より7~8℃ほど低かったと言われています。
「涼しくなっていいじゃん♪」などとナメてはいけません。
これは、東京が札幌と同じ寒さになるのと一緒であり、札幌がモスクワと同じ寒さになるのと一緒なのです。
まあ、今の人類ならなんとか乗り切れそうな気もしますが、7万年前の生物にとっては一大事。
それまで、数多くの大型哺乳類が地球上に生息していましたが、軒並み絶滅してしまうという悲しい結果になってしまったのです。
ゾウの仲間はほとんど絶滅。生き残ったのはインドゾウとアフリカゾウの2種だけです。
巨大アルマジロ。
サイの仲間。ユニコーンのモデルになったという説も。
これらの大型哺乳類の大半が絶滅した原因については、「寒くなって主食の植物が無くなった」「狩猟し過ぎ」「伝染病」「巨大な嵐のような天災」など、諸説あります。
ただいずれにせよ、大型哺乳類が激減したということは、すなわち投槍で狩猟する対象が激減したということです。大型哺乳類に食料を頼っていた当時の人類にとって、大きな問題でした。
ということで、大型哺乳類がいなくなれば、必然的に中型小型の獲物を狩るしかないわけですが、そういった獣は基本的に開けた場所には生息していません。基本森の中です。
しかし、森の中において、投槍はまったくの無力。構える、助走をつける、といった動作ができません。投石も、障害物が多すぎて満足な威力・命中精度を出せません。
かといって、素手で捕まえられるはずもなく…。
こうして追い詰められた人類。このまま飢え死にかと思われたその時、ある一人の天才(←詳細不明)が、「弓矢」なる兵器を発明したのです。
弓のいいところ
さて、ここで弓のすぐれていた点を挙げてみましょう。
弓矢は文字通り、発射装置である弓と、弾である矢がセットになった兵器です。弓の方は嵩張りますが一つあればよく、コンパクトな矢を矢筒に入れてたくさん持ち歩けば、何発も発射できるわけです。一発外してもすぐに2発目を撃つことができるのです。
矢筒
逆に、投槍はでっかい槍そのものが弾。そう何本も持ち歩けるものではなく、基本一発勝負になってしまうのです。
もちろん、弓を自在に使いこなすには、日々の修練が欠かせません。
しかし、矢を発射するエネルギーは、引っ張られた弓が「元に戻ろうとする力」を利用していますので、身体動作はいたってシンプル。
「右手で弦を引っ張る」→「右手を放す」。これだけ。
従って、獲物に忍び寄って、どんな体勢からでも音もなく攻撃できるのです。
投槍や投石は全身運動が必須ですので、こうはいきません。
人間の身体構造上、手で上方向に投げるのは難しいものです。しかし、弓矢は上空の獲物に対しても、全くその威力を落としません。
弓矢の威力が身体動作に依存していないために実現された点です。
このことは、リスみたいな樹上の動物や、鳥が、狩りの対象になったことを意味します。
そんなわけで、弓の発明により、人類はその戦闘力をさらにアップさせ、狩猟の対象をさらに拡大していったのです。
人類がマンモスとかの絶滅によるピンチを脱することができたのは、弓のおかげと言っても過言ではありません。
なお、一世を風靡した投槍器は、ごく一部の地域を除いて完全に忘れ去られてしまいました。
このように、有能過ぎる弓。
はじめは狩猟のための道具でしたが、持ち運びしやすく連射も可能となれば、もちろん戦争でも重宝されるようになっていくわけですね。
というところで、次回に続きます。
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