我々がまだ若かりし頃、メキシコのイメージって、
こんな感じでした。
暑い日差しにご機嫌な人々。本当に楽しそうな国のイメージがありました。
しかし、今はもうメキシコと言えば麻薬組織。麻薬組織と言えばメキシコ。
ネット上に大量のグロ画像を供給する国と成り果ててしまいました。
とはいえ、21世紀にもなってなんでそんな状態なのでしょうか。よく分からなかったので、ちょっと調べてみました。
メキシコにおける麻薬の製造
メキシコで本格的に麻薬の製造が始まったのは、1860年代のこと。鬼畜イギリスに阿片漬けにされた中国(清)からの移民が、中南米にケシの実を持ち込んだとされています。
なお、ケシというのは、たいへん重要な作物で、その実から取れる樹液は、モルヒネの原料となり、モルヒネを精製するとヘロインという超強烈な麻薬が出来上がります。
Wikipedia『ヘロイン』から引用
ちなみに、マリファナに関しては、スペイン植民地時代から、広く一般的に吸われていました。砂糖などと一緒に栽培していたようですね。
まぁいつの時代もどこの国にも麻薬はありますし、その善悪も時代とともに変化するものです。細々と製造しているうちは、さほど目立つようなものではありません。
メキシコの不幸は、すぐ隣に超巨大麻薬市場があったことでありました…。
需要と供給
アメリカは、今も昔も世界最大のドラッグ消費国です。
現職のオバマ大統領ですら、「大麻はアルコールほど危険ではない」「私も吸っていた」と発言しちゃう国。
ドラッグをやった事の無い人の方が少ないレベルです。
そんなわけで、麻薬の製造のノウハウがあり、すぐ隣にたくさん需要がある。供給しない手はないですよね!
なお、アメリカで爆発的に麻薬需要が広がったのは、1960年代。
ベトナム戦争が泥沼になり、兵士の間に薬物乱用が広まっていったことによります。
ベトナム戦争での兵士たちのストレスは凄まじいものだったのです。
そうして、メキシコの麻薬ビジネスはグングン成長していきました。
メキシコが製造していたのは、主にマリファナとヘロイン。特にヘロインは利益率が高く、たくさんのケシ畑が作られました。
アメリカでも、メキシコからの麻薬の密輸は問題視されていましたが、なかなか有効な対策が取れずにいました。
まず、国境が接し過ぎてて監視しきれないという問題があります。
アメリカーメキシコ国境の長さは3141km。日本列島と同じくらいの長さですので、監視しきるのは㍉。
色ついてるとこがメキシコ
いちおうずーっと塀が建ってます。
それに、麻薬の製造にしても、他国の中での事ですので、なかなか口を出しにくいということもありました。
ニクソン登場
しかし、国内の麻薬汚染が進めば、アメリカも流石に怒ります。
1971年、ニクソン大統領は、麻薬をアメリカの敵として、麻薬との全面戦争を宣言しました。
「麻薬戦争(War on drug)」という言葉はこの時のニクソン大統領の演説で使われたものです。
1973年には麻薬取締局を創設し、本格的に麻薬の撲滅に取り組むようになります。
当初の矛先はマリファナでしたが、すぐにコカインやヘロインといった比較的強い麻薬も撲滅の対象となります。
アメリカでの麻薬の最大の輸入国はメキシコですので、まずはメキシコ政府と協力して、メキシコのケシ畑を枯葉剤等を駆使しつつ、粉砕。
これはけっこう効果があったようで、メキシコのヘロイン製造は一時的に深刻なダメージを受けます。
この状況、麻薬の供給側にしてみると、たくさんのお客様が待っているのに作れないなんて!となりますね。
そうして、メキシコの麻薬ビジネスは新たな局面に進んでいきます。
もう一つの麻薬大国
何もメキシコだけが麻薬の製造元ではありません。麻薬の王様コカインを大量に製造する国があります。それは、
そう、コロンビアです。
南米では、コカ(コカインの原料)の栽培が古くから行われていました。
そして、この製造から流通までを取り仕切るのが、メデジン・カルテル、カリ・カルテルといった巨大な麻薬組織。
1980年代のコロンビアでは、この二つの組織が隆盛を誇っていました。
例えばメデジン・カルテルのボスであるパブロ・エスコバルは、当時世界7位の富豪。
全部麻薬で稼いだお金ですが、その圧倒的な資金力に逆らうことは、コロンビアの人々には不可能でした。
賄賂、脅迫、暗殺を自在に操ったエスコバルは、史上最悪の麻薬王とも言われています。
事実、コロンビアという国の政治から警察までを、完全に牛耳っていた時期がありました。
麻薬王パブロ・エスコバル
メキシコのビジネスモデル
メキシコの麻薬組織は、メキシコ経由でアメリカに密輸するルートをコロンビアの組織に提供する事で、新たにコカインの利権に関わるようになりました。
最も摘発リスクの高い「流通」を他に任せる事は、コロンビアの組織にとっても悪くない話。
この協力関係はスムーズに構築されました。
メキシコの麻薬組織は、摘発リスクがさらに高いエンドユーザーへの小売は、アメリカのストリートギャングに任せています。
メキシコという地の利を活かして、アメリカ国内に安全に、確実に、麻薬を運び込むのが彼らの主要な仕事となりました。
こうして、新たなビジネスモデルとして、
- 製造はコロンビアのカルテル
- 流通はメキシコのカルテル
- 小売はアメリカのマフィア
という役割分担が出来上がりました。
麻薬戦争の成果
さてさて。
こうした巨悪がいつまでも放置されるハズはなく、ニクソン大統領の後も、アメリカは累計100兆円を超える予算を投入して、中南米麻薬組織の壊滅に取り組んできました。
その成果の一つが、コロンビアの巨大麻薬カルテルの壊滅です。
メデジン・カルテルも、カリ・カルテルも、アメリカとコロンビア政府の攻撃により、組織としては消滅。
結果、コロンビアでは統一的な組織ではなく、小規模なたくさんの組織によるビジネスが主流になりました。
なお、コカインの製造量自体は減っていません。今でもアメリカに流通するコカインの90%がコロンビア産だとか。
単に組織の動きが捕捉しにくくなっただけのような…。
ただ、コロンビアの麻薬組織の力が弱まった事は、そのままメキシコ側の力が強まる事を意味します。
これまでは対等に取引していた製造者と流通者ですが、軍事力でのバランスが崩れ、今やメキシコの麻薬組織は「製造」にも強い影響を持つようになっています。
もう一つ、麻薬戦争の成果を上げるとするならば、メキシコ政府と協力して、メキシコの麻薬カルテルを厳しく取り締まった事です。多数の幹部を摘発する事に成功しました。
結果としては、麻薬カルテルからの報復を引き起こし、復讐の連鎖が続いていますが。
メキシコがああなった原因
本当はもっと複雑な歴史や背景がありますが、まとまらないっすw
というわけで、超ざっくり言うと、こんな感じの背景があるんですね。
難しいけど気合でまとめてみます。
メキシコでは巨大になった利権(麻薬の調達、密輸ルート)を巡って組織同士の戦いが今も繰り広げられています。
他の組織がいなくなれば、その利権が自分のものになるわけで、戦いが止むことはありません。
そこに、メキシコ当局の弾圧があり、三つ巴の血で血を洗う戦闘が日夜繰り広げられているのです。
そんなわけで、現在のメキシコの惨状を招いた理由は、概ね次の4つであります。
結果、メキシコのカルテルが力をつけてしまいました。
アメリカ政府の支援のもと、メキシコ政府は激しく麻薬カルテルを攻撃しました。
結果、多数のカルテルの乱立を招き、たくさんの人が死にました。
買う奴がいるから売るのか、売る奴がいるから買うのか…。
コカやケシや大麻を栽培する農家。
麻薬組織に就職する若者。
彼らの目線に立てば、他にロクな仕事が無いから、麻薬を作るしかありません。
麻薬組織のメンバーはどんどん殺し合っていますが、プータローはたくさんおり、人員補充には困りません。
同じくアメリカに接しているカナダは、別に貧しくないので、麻薬組織がこんなに力をつけることはないのですね。
アメリカの麻薬戦争がイマイチ成果を挙げていない原因は、③④を無視して、供給する側のみを叩いた、つまり①②をやってしまった事と言われています。
さらに、抗争に使用される武器は、アメリカから購入しているという、微妙なマッチポンプ。
こうして見てみると、全部アメリカが悪いんじゃないかという気がしてきます。
供給ではなく需要を叩く
つい先日、アメリカのコロラド州で、嗜好品としての大麻が解禁されました。
この解禁には、「合法化により麻薬組織の資金源を絶てるかどうかの実験」という側面があります。
禁酒法時代にアル・カポネが巨万の富を築いたように、嗜好品の単純な禁止だけでは、非合法組織のシノギを増やす結果になる可能性が非常に高いです。
そこで、大麻を合法化し、大麻の製造→流通→小売までのビジネスを、表の世界に出そうとしているわけですね。
本当は需要そのものを根絶出来ればいいのでしょうが、その方法が見えない以上、合法化というのは選択肢の一つとして理解はできます。
ただ、大麻はまだしも、コカインやヘロインを合法化するのは無理がありますよね。
国内に強い薬物が普通に蔓延してしまったり、乱用するバカも出てくるわけで、そうやすやすと解禁するわけはありません。
まあ今後も様子を見ながら色々試してみるしかないのでしょうね。
メキシコ頑張れ。