「独立国家を作る」
男子なら一度は夢想することですよね。
誰の目も気にせずに一人きりで生きよう。
国民のために尽くす政治をしよう。
国民を意のままに操り毎日愉快に生きよう。
動機は様々でしょうが、自分ならアノ国やアノ国よりはうまくやれると思う人が大半だと思います。
国家の必要条件
さて。
国として体をなすための最低条件は、
①領土
②人民
③権力(主権)
を持っていること、だそうです。これだけ聞くと簡単そうな気もします。
が、例えばあなたが自宅で独立宣言した場合、日本の警察や自衛隊の武力から、領土(家の敷地)を実力で守りぬきつつ、電気・ガス・水道や食料、医薬品等全てを自力で調達する必要があります。
それどころか、下手をするとあなた自身が国境(自宅)の外に出ることもできません。
某原子力潜水艦の艦長ならともかく、自宅での独立宣言はもって数時間、せいぜい疲れて寝た瞬間に機動隊が踏み込んできてゲームオーバーでしょう。うーん。やっぱり無理なんでしょうか。
無いなら作ればいいじゃない
あくまで個人レベルで国を作る時、直面する最大の問題は領土をどうするかでしょう。
すでに主権のある土地(先占の法理)での強引な新国家設立が、深刻な武力紛争に発展する事例は、枚挙にいとまがありません。
現在進行形のウクライナ問題もそうですよね。
誰のものでもない土地はどこかにないものか・・・。
無いなら作ればいいお!
という訳で、誰のものでもない公海上に人工物を作って国にしようと考えた男たちがいました。
レジャー立国構想
アトランティス(1962年頃)
ある会社が、フロリダの沖合海上(アメリカ領海外)に8ヘクタールほどの人工施設を作り、カジノやマリンレジャー観光で経営する独立国家アトランティスを作ろうとしました。
アメリカ政府も法の不備や油断があったのでしょうか。着工まで許してしまいましたが、波も潮もある外海に人工物を建設するのはそう簡単ではありません。
翌年のハリケーンで大ダメージを受けた上、アメリカ政府の訴訟という追撃でその計画は文字通り水の泡となってしまいました。
当時のちびっ子に戦慄を与えたシーン
(本編とは関係ありません)
大カプリ共和国(1963頃)
アトランティスに負けじと、ライバル会社も似たような構想で海上施設建設を目指しました。
が、アメリカ政府に同じ手は通用しません。大陸棚がどーとかいう訴訟でさっさと潰してしまいました。
ニューアトランティス(1964-1965?)
ニューがつくだけでなぜか昭和のリゾート施設みたいな印象になりますね。
こちらは、かの文豪ヘミングウェイの弟、レスター・ヘミングウェイがカリブ海上に作った国です。
ブロックと竹でつくったやぐらの上に鉄道の客車をひとつ乗せるというお手軽DIY国家で、大統領選まで実施しましたが、こちらもやはり嵐で破壊されました。
そもそも本物のアトランティス自体、嵐で海に沈んだとされる国。名前が悪いよ名前が。
アバロニア(1969頃)
アメリカ・サンディエゴの沖合にあるサンゴ礁に2隻のポンコツ貨物船を沈めて領土とし、周辺海域の水産物(特にアワビとロブスター)を独占しようとした国。
狙いはよかったのかも知れませんが、荒波により予定外の深い場所に船が沈み、作戦は失敗。多額の負債だけが残りました。
というわけで、どうも60年代のアメリカは独立国家建設ブームだった感があります。
アフリカ諸国家の独立が相次いだことや、宇宙開発競争の時代でもあったことが関係しているのかもしれません。
どうやら領土の自作は無理だお…
シーランド公国樹立
やっぱり自力で国家建設は無理なのか。
男たちが諦めかけていた1967年のある日、元イギリス陸軍少佐のロイ・ベーツによって、シーランド公国樹立の宣言がなされました。
領土はイギリス沖合の公海上に浮かぶ二本足の奇妙な無人施設。
そこは世界中のどの国のものでもありませんでした。
場所
ロンドンの右下の赤い点
国旗
なぜ誰のものでもないのか?
実はこの施設は、第二次世界大戦中にイギリスが作った海上要塞だったのですが、戦後そのまま放置されていたものでした。
まさかそこに国ができるとは思ってもいなかったイギリス政府。慌てて訴訟を起こしますが、領海外ということで国内の司法で裁くことはできません。
とはいえ、わずか人口4人(+政府職員10数名)で何の産業もない自称国家。
無視して自滅を待つのが得策と考えたのでしょう。
法律なんていくらでも都合のいい様に解釈するブリカス様は、これを放置して様子を見ることにしました。
クーデター発生w
1978年はシーランド公国の歴史の中でも重要な年でした。
この年、シーランド公国カジノ構想の出資人でもあり、首相に任命されていたドイツの投資家アッヘンバッハが、モーターボートやヘリによってシーランドを急襲しました。
どうせ自分が出資してカジノにするんだから自分の方が国王にふさわしいとでも考えたのでしょうね。こんな小さな国でも権力闘争が起きるから面白いものです。
さて面白くないのは国外追放されたロイ・ベーツ公。
元イギリス陸軍のツテをいかして仲間を集めると、すぐさま奪還作戦を決行し、再び国主の座へ返り咲きました。
現在
このシーランド公国、なんと現在も存続しています。
シーランド公国公式サイト
http://www.sealandgov.org/
この国の主な収入源であり、ネットでも時々話題になるのが、「爵位の販売」。
ナイトやロード(Lord)、レディ(Lady)、男爵(Baron)、女男爵(Baroness)といった地位が、わずか数千円から購入できます。お買い得!
シーランド騎士団証明書。99.99ポンド(約17,000円)
なお、よほどクーデターには懲りたのか、カジノ構想はその後ないようです。
また、国代表のサッカーチームもあります。
が、国家としてどこからも承認されていないので公式戦には出られません。
でも笑顔。
なんだかそれなりに楽しそうなシーランド公国。
あくまで「自称国家」扱いではありますが、そんな状態で50年近く存続しているのは素直にすごいことだと思います。
小さい頃に夢見た国とは違う姿かも知れませんが、やっぱりロマンを感じるこの国。
末永く平和であってほしいですね。