最初に言っちゃいますけど、今現時点で存在する生命の起源に関する説明は、大きく次の3つに大別できます。
奇跡説
これは前回記事でたらたらと書いたような感じのやつ。
確率が低い→奇跡!神様!!
みたいなね。思考停止に過ぎません。
パンスペルミア説
かつて一世を風靡したのが、このパンスペルミア説。
一言で言えば、生命の種は宇宙から飛んで来たんだよという説です。
隕石に生命の素がくっついてきて、地球で繁栄したというわけ。
けっこう真面目に検証されて、大気圏突入の高熱や、宇宙を飛び交う放射線も、ある種の微生物なら耐えられるという事で、俄然盛り上がりを見せました。
しかし、その根本の「生命の素」が、どこでどのようにして発生したかという説明を放棄しているので、今となっては微妙。
やっぱ地球で生まれた
残るは、なんらかのメカニズムによって、地球に生命が誕生したという説。
このメカニズムの説明がなかなか難しくて、奇跡説やパンスペルミア説が我々一般人の間で幅を利かしてきたわけです。
が、そのメカニズムも少しずつそのベールを脱ぎ始めています。
生命の歴史
地球が誕生してから今まで、ざっと46億年。
まずは、その46億年の中で生命がどのように発生し進化したのかを、軽く年表形式にしてみます。
この年表において注目すべきは、生命が誕生するまでのスピード感です。
生命がその歴史上で一番苦労したのは、意外なことに原核細胞から真核細胞に進化することでした。
ここに18億年もかかっています。
次点は単細胞生物から多細胞生物に進化すること。これにもけっこう手こずり、10億年かかりました。
なお生命の誕生は3番手。地球が誕生してからたったの6億年後のことでした。
赤ちゃん地球
地球が誕生してから6億年と言っても、実際の年数はもっと短かかったはず。
というのも、46億年前の生まれたばかりの地球の環境は、とても生命が生まれる余地などない過酷なものだったからです。
地球の誕生
46億年前より昔、太陽の周りには大小様々な惑星が飛び交っていました。
それらが衝突と合体を繰り返して、赤ちゃん地球になっていったと考えられています。
そして45億6700万年前。
かなり大きめ(火星サイズ)の天体が、その赤ちゃん地球に衝突して融合。そうして現行サイズの地球になりました。
エヴァでいうところの、ファーストインパクト
この頃の地球には小惑星が降りまくっており、そのエネルギーによって地表は数千度のマグマに覆われていました。
この地獄のような環境で生命が誕生する可能性はゼロでした。
冷却
ただし、宇宙は寒い。
そのおかげで急速に地球は冷え、空中にあった水蒸気を雨に変えたのであります。
年間降水量は10m。毎日大雨が続いた結果、44億年前の時点で原始海洋が生まれました。
仮にこの時点を下地が整ったタイミングとすると、生命誕生までの猶予はたったの4億年です。
え!!たったの4億年で生命を!?
「出来らあっ!」と言いうのは簡単ですが、実際どういうプロセスがあったのでしょうか。
生命はどこで生まれたか
ダーウィン以来、生命は地表の小さくて暖かい池で生命は生まれたと考えられてきました。
しかし、40億年前の地球は穏やかな環境ではありません。
41億〜38億年前は後期重爆撃期といって、小天体が集中的に地球に降り注いだ時代でした。
したがって、もし仮にその池に原始生命が生まれても、すぐに衝撃で吹っ飛ばされるか蒸発してしまう感じ。
そうした衝突の影響から逃れられそうなところって、深海しかありませんでした。
深海に生きる微生物
深海の中でも、特に生命誕生の最有力候補地と考えられているのは、海の底にある熱水噴出孔の周辺です。
深海のあちこちには、地熱で温められた熱水(300〜400℃)が吹き出る噴出孔があります。
モクモク出てる黒いのが熱水
この噴出孔からは熱水だけでなく、硫化水素、メタン、アンモニアといった生命誕生の材料となりうる化学物質が豊富に噴き出ています。
さらに、その周囲の微生物を分類したところ、そのほとんどが古細菌という系統(ドメイン)に属していることが分かりました。
ドメインというのは、生物を根本的なレベルでのゲノムの違いによって分類したもので、この世の生物は3つに分類されています。
俺たちは真核生物ドメイン
この3つの中で古細菌は最古の系統であり、さらにその中でも最も早い時期に誕生したのが好熱菌でした。
好熱菌とは、高温環境を好み、100℃の水の中でも元気に暮らせる驚異の生物。
この発見により、海底の熱水噴出孔の周りには、地球のごく初期の段階に生命が存在していた可能性が強まったのです。
海底で生命が生まれるメカニズム
ここからは具体的な話。
有機物の作り方
まず大前提として、生命が生まれるためには、その材料であるタンパク質とか脂質とか核酸みたいな、いくつもの分子が組み合わさって構成された高分子化合物がなくっちゃいけいない。
しかしながら、その高分子化合物が生成されたプロセスがよう分からん。
原始の地球には、鉄とか硫黄とか二酸化炭素とかメタンとか窒素みたいな、わりとシンプルな物質は豊富に存在していました。しかし、それらはシンプルであるがゆえに、化学的に安定しているのです。
化学的に安定しているということは、そうそう簡単には他物質とくっついたりはしないということ。したがって、ほうっておいても変化が起こりません。
高分子化合物が生成されるためには、触媒となるような何かが必要になるのです。
ところが、例えばタンパク質を作るには触媒としてRNAが必要になります。じゃあRNAがあればいいのかというと、そのためにはタンパク質が必要。ということは、タンパク質があればいいとのかというと、そのためには、、、。
という具合に無限ループになってしまいます。
表面代謝説
ここで、タンパク質とは全く異なる触媒が必要になるわけですが、その候補の一つとして挙げられるのが、硫化鉄という鉱物。
硫黄がくっついた鉄(FeS)です。
この硫化鉄の表面に硫化水素と二酸化炭素を用意してあげると、
FeS(硫化鉄) + H2S(硫化水素) + CO2(二酸化炭素)
↓
FeS2(二硫化鉄) + H2O(水) + HCOOH(ギ酸)
という反応が起こります。
この化学反応において注目すべきは、硫化水素と二酸化炭素という無機物から、ギ酸という有機化合物(脂肪酸の一種)が生まれているところ。
鉱物の表面で代謝っぽい現象が起こっているわけです。
しかも都合のいいことに、海底の熱水噴出孔の周りにはこの硫化鉄や硫化水素が豊富に存在していますので、生命誕生の地が海底であるという説を後押ししています。
なお、硫化鉄に限らず、鉱物はけっこう触媒になりやすいものです。
例えば、アウトドア派には必須のハクキンカイロ。
半永久的に使える
これは、プラチナが酸素を吸着しやすい性質を利用して、ベンジン(炭化水素)を水と二酸化炭素に分解するという仕組み。この分解の過程で熱が発生するのです。
粘土
こうして鉱物の表面で生成された有機化合物は、海中を漂うことになります。
それが、広大な海でたまたま別の有機化合物と出会って結合するというシナリオは、かなり確率が低そうに思えます。
しかし、もし何か土台のようなものがあったならば話は別です。
現在、多くの科学者は、海底にある粘土こそがその土台だったと考えています。
粘土というのは、何層ものシート状に原子が並ぶ構造を持っています。
シート状になっているということは、大きな表面積を持っているということ。そして、層の間の狭い空間に集まりやすいということ。
まず、海中に漂う有機化合物が粘土にぶつかり、その表面にくっつく。やがて同じようにい、くつもの有機化合物が粘土の表面に集まる。お互い粘土にくっついて逃げ場がないので、自然と有機化合物同士が結合する。
より複雑な高分子化には、粘土のシート状構造が不可欠だったというわけです。
そのおかげで効率的に「試行回数」を稼ぐことができ、結果として様々な有機化合物が生成されたのであります。
アミノ酸だけでなく、RNAの材料であるヌクレオチド、そしてそれが繋がってRNAの断片まで作られた可能性は十分にあります。
膜
実は、イメージに反して、細胞を包む膜の発生はさほど難しいものではないっぽいです。
話はシンプル。
脂質が潤沢にある場所で攪拌されたかなんかで、小さな泡ができた。その泡の中に、たまたま粘土から剥がれたRNAが取り込まれた。
これだけ。
脂質分子は、混ぜられると内部が空の球状にまとまりやすい性質を持っています。
これが細胞の原型であるのはほぼ間違いないところと考えられています。
この泡の中には、RNAだけでなく、タンパク質の材料であるアミノ酸なんかも取り込まれました。
原子細胞
RNAはヌクレオチドの鎖ですが、その鎖が短いうちは何も起きません。
しかし、その並びはどうあれ、30個以上の長さになった途端に、複製を始めます。触媒の機能を獲得するのです。
脂質の泡に取り込まれたRNAの断片は、その中で結合して30個以上の長さになっていったのでしょう。
もちろん、原子細胞が持っていたRNAはランダムな並び。個体によって、素早く複製できる細胞とゆっくり複製する細胞、複製すらできない細胞もあったはず。
そういうダメな細胞はすぐに消滅し、逆にテキパキ複製できた細胞は、あっという間にその個体数を増やしていくことになります。
まとめ
もう一度、生命発生のメカニズムをおさらいしましょう。
①有機化合物の合成
海底の熱水噴出孔の周囲で、鉱物の表面で有機化合物が生成される。
材料は硫化水素とか二酸化炭素とか窒素とか。
②さらなる高分子化
①で生成された有機化合物が、粘土の表面でさらに結合を繰り返し、高分子化。アミノ酸やRNAが生成された。
③脂質の膜で覆われる
②で生成されたRNAやアミノ酸が、脂質の泡に取り込まれる。
その結果、生命のプロトタイプともいうべき雑多な種類の細胞もどきがたくさん発生した。
④自然選択
その多種多様なプロトタイプのうち、RNAが有効に機能して素早く大量に複製できた細胞が生き残った。
これがこの地球の生命の共通祖先です。
ここまでのステップをだいたい4億年でこなしたというわけ。
まあ、実際にはこれは諸説ある中の一つに過ぎなくて、まだまだ分からない事だらけなのですが、なんかまあ普通にできそうな感じでしょ?
参考文献、サイト様
生物はなぜ誕生したのか:生命の起源と進化の最新科学
生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)
スーパーくいしん坊
ウィキペディア「生命の起源」
Life’s Rocky Start
るいネット「鉱物の表面で生物は生まれた」