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政治家「お金=母乳」

ロビー活動がどうちゃらと続けてきましたが、ここまで来たら、いちおう「お金」についても触れなくてはなりません。

というわけで、まずはこの名言。

政治家にとって、お金は母乳なのである。

あるアメリカの議員が残した有名な言葉です。

この言葉の意味することは、「お金によって議員は育つもの」「お金は議員にとって必要不可欠なものである」ということです。

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議員の給料

議員なんだからバッチリ給料もらってるだろうが!!と言いたい方のために、ちょっと彼らの給料を見てみましょう。

アメリカの上院議員の年収はおよそ1800万円($174,000)

なんか思ったより少ない…。

ただ、アメリカ人というのはわりかしお金にはきっちりしていて、報酬と経費は分けて考えるべきという価値観が浸透しています。

彼らからすると、議員の報酬というのは、あくまで「議員としての働きへの対価」。

議員としての政治活動にかかる諸費用は、報酬とはキチンと区別され、「手当」として支給されるのです。

議員の手当

諸費用というのは、要するに人件費とか事務所の維持費とかのこと。

標準的な上院議員のオフィス

アメリカの議員の最大の仕事は、自分の支持者の意に沿った法案を起草して議会を通すこと。

従って、まず大前提として、法律の知識に長けた「立法担当秘書」が絶対必要になります。一人では複数の分野を網羅できませんので、当然複数人必要です。

さらに、新聞記者など各種メディアへの対応として「広報担当秘書」が必要。

他にもスケジュール管理担当、地元選挙区の調査分析担当、陳情を聞く担当、金庫番、これらを統括する親分的な秘書も必要です。

こうして積み上げていった結果、下院議員で平均16.9人、上院議員に至っては平均43.5人もの秘書を雇っているのです。

それに加えて、事務所の家賃や事務用品、機関紙発行、交通宿泊費といったものに関しても、もちろんバッチリ手当が出ます。

議員の仕事をやる以上は絶対にかかってしまう費用なので、当たり前ですね。

で、こうした手当の総額はいくらぐらいかと言いますと、

下院議員で約1.5億〜2億円

上院議員に至っては、なななんと約3億〜5億円もの手当が支給されております。

日本の場合

いちおう、参考までに我が国の国会議員についても触れておきます。

まず基本給が年間2200万円くらい。

それに加えて、諸手当が1200万円、政党助成金等が1000万円。公設秘書3名までの人件費が2500万円くらい。

実質的な年収ベースだと、たったの7000万円くらいとなります。アメリカの後に見ると、かなりショぼい。

日本の場合、報酬と経費をごっちゃにしてしまうので、日本の政治家は、この費用をうまく振り分けて選挙対策や政治活動を行います。

ただ、日本の場合、議員が自ら法案を起草することはほとんどありませんので、政治活動費は少なめ。

そういうのはだいたい官僚がやってくれるので、この程度の金額でもなんとかやっていけるのです。逆に、選挙対策以外に大したことはできないわけですが。

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お金と選挙

そんなわけで、アメリカの議員というのは、黙っていても億を軽く超えるほどのお金を手にしています。

羨ましい。

しかし、冒頭で紹介した「お金=母乳」が意味するお金は、この給料や手当のことではありません。

議員の活動のうち、最も重要で、最もお金がかかるもの。

そう、それは選挙費用なのです。

下院議員で2年に1回、上院議員で6年に1回訪れる改選の時期は、猛烈に金がかかります。

下の表は、当選者が選挙でどれくらいお金を使ったのか表したグラフです。

上段は下院議員で、約1.6億円。下段は上院議員で、約10.8億円。
毎年上昇しております。

たった1800万円の議員報酬だけでは、逆立ちしたって払えない額であります。

さらに、大統領選挙に至っては、なんと1000億円以上もの費用が注ぎ込まれるのです。

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政治献金

この超高額な選挙費用を賄う方法は、ただ一つ。

政治献金を集めることしかありません。

アメリカでは、選挙資金のうち6割近くが個人からの献金となっています。

オバマは2012年の大統領選で500億円以上を個人献金で集めました。

日本人が政治献金をすると、癒着してんじゃないのみたいに変な目で見られがちですが、アメリカ人は政治献金に対して、まったく抵抗感はありません。

むしろ、自分の悩みや問題を解決してくれそうな議員を当選に導くために、懐事情が許す範囲で、どしどし選挙費用を援助すべし!という感覚なのです。

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ハードマネーとソフトマネー

なお、この政治献金には、大きく2種類のお金があります。

ハードマネー

1つは「ハードマネー」というもの。

直訳すると「硬貨」という意味ですが、政治の世界では「直接議員に寄付された選挙資金」を意味します。

このハードマネーは法律で厳密に縛られており、連邦選挙委員会というこわ〜い組織にガッチリ監視されます。

・誰から貰ったか
・いつ何にいくら使ったか

を全て報告しなくてはなりません。

また、献金額にも上限があり、1回の選挙ニュースつき1人あたり最大$2,700と決められています。
以前はもっと少なくて、$1,000とか

議員にとってキツいのは、選挙のための費用はすべてこのハードマネーでなくてはならないこと。

いくらアメリカ人が政治献金に抵抗がないと言っても、実際にある程度の額を出せるのはせいぜい0.25%程度。400人に1人の割合です(864,000人)

それでさらに上限を決められているから資金集めにも限界があって、結局のところ、ハードマネーだけでは満足のいく選挙戦は難しいのです。

しかし、何事にも抜け道はあるもの。

ソフトマネー

その抜け道が、「ソフトマネー」というお金。

これは、ハードマネーとは違って、議員ではなく「政党や政治団体に対して寄付されたお金」です。政治団体というのは、AIPACやライフル協会みたいな団体。

NRAやAIPACみたいな大手団体は、自力で支援者からお金を集めます。

ただし、その名目は、「政治活動のための献金」。

AIPACで言えば「イスラエルを支援しよう!」、NRAで言えば「銃を所持して家族を守ろう!」みたいな政治キャンペーンのために使われるべきお金です。

このソフトマネーは、ハードマネーと違って献金額に上限が定められていません。お金持ちはいくらでも献金できるのです。

また、ソフトマネーは本来は選挙費用とは区別されたお金なので、連邦選挙委員会の監視の対象から外れます。

というわけで、ソフトマネーというのは、集めやすく使いやすい、とっても便利なお金なのです。

ただし、ソフトマネーは特定の候補者を支援するためには使えません。

○○候補に清き一票を!」みたいなCMにソフトマネーを使うのはNGになります。

で、ここからが「抜け道」なわけですが、例えばこんなCMはどうでしょう。

○○候補は銃の所持に反対している。彼を当選させたら家族を守れないぞ!

こんなCMが流れると、実際には銃所持賛成の議員が得するわけですが、表現的には特定の議員を応援しているわけではないのでセーフなのです。

自分の支持率を上げられないなら、相手の支持率を下げればいいじゃないという発想ですな。

こうして、本来選挙活動には使えないはずのソフトマネーは、選挙におけるネガティブキャンペーン費用として組み込まれていきました。

今や、アメリカの選挙戦は、いかに上手にネガキャンを行うかが当落を決める最も重要なポイントの一つなのであります。

大手の政治団体は、唸るほどのソフトマネーを持っていますので、その影響力も当然大きなものになっていくのです。

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アメリカのネガキャンわろたw

それでは、アメリカの洗練されたネガキャンテクニックを見てみましょう。

最も汚い選挙戦


アメリカ史上「最も汚い選挙戦」と言われているのが、1988年の共和党ブッシュ(父)vs民主党ドゥカキスが競った大統領選です。

ドゥカキスは、元マサチューセッツ州知事。

彼は、財政破綻寸前だったマサチューセッツ州を増税無しに立て直すなど、目覚ましい実績を引っさげて大統領選に臨んだのです。

ドゥカキスの人気は猛烈なもので、選挙選序盤は圧倒的にブッシュ陣営が不利な状況でした。

この状況を打破するためにブッシュ陣営が見つけた突破口が、ウィリー・ホートンという犯罪者でした。

鬼畜ホートン

このホートンは、強盗殺人で終身刑を言い渡されていた犯罪者。

当時のマサチューセッツ州には、受刑者が週末だけ家に帰れるという一時帰宅プログラムがありました。

ホートンは、この制度を利用して脱走してその足で強盗強姦殺人を働くという、まさに犯罪者の鑑のような人物でした。

ドゥカキスにとっては運の悪いことに、ホートンがこの悪行を働いたのは、ドゥカキスがマサチューセッツ州知事をやっていた時期のことだったのです。

これを知ったブッシュ陣営は、ウキウキで次のようなCMを流しました。


訳:
ブッシュは死刑制度を支持しています。
デュカキスは死刑制度に反対しています。
マサチューセッツ州では、殺人犯の一時帰休が認められています。
ウィリー・ホートンは、強盗に入り、少年を19回も刺して殺しました。
終身刑を受けたホートンは、10回もの一時帰宅を認められ、その最中に逃亡し、若いカップルをさらいました。男性は殺され、女性は繰り返し強姦されました。
殺人犯の一時帰宅。これがデュカキスの政策です。

実際のところ、この一時帰宅プログラムを制定したのはドゥカキスの前任者であり、ドゥカキスはその方針を引き継いだに過ぎません。しかも、前任者は共和党。

しかし、選挙に不慣れなドゥカキス陣営は、このネガキャンへの対策が遅れ、釈明を行ったのは、CMが流れ始めてから1.5か月も経過してからでした。

この頃にはもうすっかりドゥカキスは「犯罪者に甘い政治家」というイメージが定着してしまいました。

予想以上の効果を実感したブッシュ陣営は、追撃の手を緩めず、徹底的に「ドゥカキスは犯罪者の味方だ」というイメージをあの手この手で発信し続けたのでした。

こうして、ドゥカキスは大打撃を受け、ブッシュに敗れ去ったのです。

このブッシュ陣営によるネガキャンの結果、現在もアメリカ人の多くが「民主党は犯罪者に甘い」というイメージを持ち続けています。

2004年大統領選


ブッシュ(息子)とケリーが激しく競り合ったこの大統領選でも、激しいネガキャンの応酬がありました。

ブッシュ側

ベトナム帰還兵を集めて政治団体を結成。

その団体に次のようなテレビCMを流させました。



ケリーのベトナム従軍時代の写真を写した後、元同僚が登場し、次々にケリーの人格を非難する証言していく。
「ベトナム兵時代、ケリーは不誠実な野郎だった」
「あいつはリーダーに向いてない」

のちに、CMの出演者は同僚でもなんでもないことが判明しましたが、選挙期間中にケリー陣営が被ったダメージは相当なものとなりました。

ケリー側

一方のケリーも、やられっぱなしではありません。

ケリーも同じように政治団体利用して、「30秒で分かるブッシュBush in 30 seconds」というテーマの、ブッシュ批判動画コンテストを開催。

このコンテストはかなり注目を集め、多数の作品が応募され、優秀な作品はテレビでも放送されました。

ちなみに最優秀賞はこちら↓


「ブッシュが作った借金を子供たちが働いて返す」みたいな内容

こうした泥沼のネガキャン合戦の結果、ブッシュが接戦を制しました。

ジョンソン大統領


1964年の大統領選。

まだソフトマネー、ハードマネーの区別ができる前の事ですが、史上最も効果的だったと言われるネガキャンがあったので、紹介します。

この選挙では、ケネディの暗殺を受けて繰り上がりで大統領となったジョンソンと、共和党のゴールドウォーターが争いました。

ゴールドウォーターは、歯に衣着せぬ保守系議員として人気を集めていました。

そんな彼が、ベトナム戦争について「ベトナム戦争解決のためには核使用も辞さない」と発言した事を、ジョンソン陣営は上手にネガキャンに利用しました。

ジョンソン陣営が打った「汚いひなぎく」と題したCMは、多くの国民に強い印象を残しました。



ひなぎくを持った少女のカットの後、核爆発の映像が流れる。
非常にシンプルなCMですが、この映像によって、ゴールドウォーターが大統領になったら核戦争が起こるかも、と国民に危惧させたのです。

1964年当時は、まだキューバ危機の記憶が生々しく残っていたこともあり、このCMは大反響を呼びました。

結果、選挙戦はジョンソンの圧勝で幕を閉じました。

政治資金の集め方

こうした優れたネガキャンを行うには、戦略を練るブレーンや、制作費用、そしてオンエアー料など、莫大なお金がかかります。

そのための政治資金を集めるために、議員も政治団体も、常に一生懸命走り回っています。

自分の人脈を頼りにお金持ちのところに寄付をお願いして回るとか、最近ではインターネットで小口の寄付を募る方法も広がってきています。

しかし、今も昔も変わらず主流なのは、「資金集めパーティー」です。

普通の資金集めパーティー

資金集めパーティーを上手くやるコツは色々あるようですが、一番よくあるパターンは、「会費制パーティー」です。

軽食とドリンクで会費100$みたいなやつね。

軽いパーティーなんかは、自宅で開かれることも多々有ります。

この時に重要なのは、人が集まりにくい金曜の夜は避けること。みんな疲れて早く帰りたいか、どこかに遊びに行きたいので、誰も集まりません。ベストは土曜日の午後らしいです。

何もイスラエルがどうちゃらみたいな壮大なテーマである必要はありません。

アメリカでは、例えば乳がん早期発見とか、奨学資金の拡充とか、ゲイの人権とか、いろんなテーマで気軽にパーティーが開かれています。

本気のパーティー

なお、AIPACやNRAのような、規模が大きく会員同士の繋がりも深い場合は、もっと踏み込んだやり方をしているようです。

華やかにお金を集める

会場は、一流ホテルやイベントホールが選ばれ、「献金しろよ!」という雰囲気に満ち満ちております。

予想献金額で参加者を3段階に分け、それぞれ会場を別にする。

逆立ちしたって10万円しか払えない人と、軽く1000万円出す人を同じ会場に置いても、逆効果にしかなりません。

金持ちは「周りに合わせればいいや」と少なめに申告してしまい、貧乏な側も萎縮してしまいます。

大事なのは、同じレベルの人間を集めて、競わせて、気持ち良く献金せることなのです。

司会が名前と前回の献金額を読み上げる。

前回の献金額を読み上げるのは、非常に重要です。 

献金額を前回より下げるなよ、というプレッシャーを与えることができます。

名前を呼ばれた参加者はみんなの前で今回の献金額を発表する。

人間、どうしたって少しは見栄を張りたい気持ちがあるものです。

それに、献金額を前回より下げると、「あいつ商売うまくいってないのかな」みたいな風評が広まるリスクもあります。

結果、みんなちょっと無理した金額を発表することになります。

その総額は

こうして集められた政治献金は、アメリカ全土で毎年5000億円を超えるといわれています。

金額の多寡だけでは判断できませんが、日本と比べるとアメリカ国民は積極的に政治に参加しているとも言えますね。

というわけで、今回はアメリカにおける政治とお金について、その一面をご紹介しました。

いつか皆さんがアメリカで政治活動をする際の一助となれば嬉しいです。


参考
https://www.opensecrets.org
Wikipedia “Campaign finance in the United States”
TIME “Top 10 Campaign Ads”

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