ジェヴォーダンの獣を追え!
ジェヴォーダンの獣とは、18世紀のフランス南部のジェヴォーダン地方に出現した、オオカミに似た謎の生物です。
1764年から1767年の3年間に80人以上の人間の命を奪いましたが、獣の正体が何であったかは、現在も不明。謎に包まれたままとなっています。
この世界史上屈指の獣害事件は、映画化もされていて、ご存知の方も多いと思います。
ジェヴォーダンの獣 ハリウッドver.
襲撃の始まり
獣の怖さが全然伝わってこない当時の絵
1764年6月1日の晴れた日。
村の女性が「ちょっと牛の様子を見に行ってくる」などと危険なフラグを立てながら、牧場へ出かけていきました。
牧場に着くと、樹々の間から何かが女性に向かって襲いかかって来ました。
農場の雄牛達がなんとか追い払ってくれた為、女性は命からがら逃げ帰ってきました。
女性の証言によると、その獣はオオカミに似ているものの、その大きさはウシと同じくらい。長く鋭い牙を持ち、長い尾はライオンのように毛皮の房で先端まで覆われており、背中には黒い縞模様。
話を聞く限り、どうやら普通のオオカミでは無い様子でした。
同年6月30日。
今度は14歳の少女ジャンヌ・ブレが、村の外れで遺体で見つかりました。
獣の正体もよく分からないうちに、ついに犠牲者が出ます。
以降、獣の襲撃は頻繁に発生し、記録によると、最低でも198回の襲撃があり、88人が死亡、36人が負傷しています。
獣の襲い方にはある特徴がありました。
それは、攻撃箇所が頭部と首に集中している事です。普通のオオカミであれば、腕や足にも噛み傷が残るもの。
さらに、家畜には見向きもせず、人間だけに目標を絞って襲いかかっており、死体の中には首を刎ねられたものや、全身をズタズタに引き裂かれたものもありました。
こういった点は、もはや普通のオオカミの習性からは考えにくいものでした。
頭に噛りつくジェヴォーダンの獣
さらに、獣の目撃証言の中には、
二本脚で歩いていた
人語を話した
人の背丈ほどもある塀を軽々と飛び越えた
等というものもあり、狼男の仕業ではないかという話まで出始めます。
そういった状況で、住民達の恐怖は高まる一方でしたが、それでも日々の生活の為には家畜を世話し続けなくてはなりません。
当時、家畜の世話は子供と女性の仕事とされており、必然的に多くの子供と女性が犠牲となりました。16歳以上の男性に犠牲者はいません。
フランス王の指令
1765年1月12日、ジャック・ポルトフェという少年が子供たち7人と一緒にいる時、獣に襲われました。
ポルトフェは子供たちと協力し、ヤリを手に取り応戦し、なんとか追い払う事に成功します。
この事件は、時のフランス王ルイ15世の興味を引き、ポルトフェはその勇気を讃えられ、士官学校へ無償で入学を許されます。
そして、この事件をキッカケに、いよいよ国家による「ジェヴォーダンの獣」討伐隊が組織される事となります。
ルイ15世が討伐隊の長に指名したのは、オオカミ狩の名人、ダンヌヴァル父子。
1765年2月、父子はジェヴォーダンに到着すると、早速オオカミを狩り始めます。
ジェヴォーダンの獣の正体がオオカミであるという先入観もあり、粛々とオオカミを狩り続ける父子。
しかし、「ジェヴォーダンの獣」による村人の被害はサッパリ止まりません。
どうも普通のオオカミの仕業ではないと気付いたルイ15世は、次に火縄銃の名人アントワーヌに討伐を命じます。
1765年9月20日、アントワーヌは体長1.7メートル、体高80センチ、体重60キロの巨大な灰色のオオカミを仕留めました。
アントワーヌの勇姿
この巨大なオオカミを仕留めたアントワーヌは、次のように公式に宣言します。
『我々はこの手で獣を仕留めたことを宣言する。これと比較される大きなオオカミをもはや見ることはない。
さらに、この生き物が恐ろしい獣となって多大な被害を引き起こしたのはなぜか、我々は判断ができない。』
このオオカミは剥製にされ、ヴェルサイユ宮殿のルイ15世の元へ送られました。
確かにデカい
ルイ15世は剥製を見て、たいそうお喜びになり、英雄アントワーヌに称号や勲功、多額の褒賞金を贈りました。
そうして、前代未聞の獣害事件は幕を閉じたかに見えました。
が、この狼はジェヴォーダンの獣ではありませんでした。
1765年12月2日、獣は再び村を襲撃し、2人の子供たちに瀕死の重傷を負わせました。そして、その後もさらに襲撃を重ね、12人以上の死者が出ました。
今では、アントワーヌの成果は、適当な大きいオオカミを「ジェヴォーダンの獣」に仕立て上げただけの詐欺行為だったとも言われています。
しかし、パリでは「ジェヴォーダンの獣」事件は終わったものとなっており、今更蒸し返すのは、ルイ15世の面子を潰してしまう事になります。その為、この襲撃が大きく報じられる事はありませんでした。
国家に見捨てられた村人達は、自力でジェヴォーダンの獣を退治せざるを得ません。
そうして300人規模の村を挙げての大狩猟団が結成される事となります。
その中には、酒飲みで嫌われ者だったジャン・シャステルという男も参加していました。
獣の最期
大狩猟団がジェヴォーダンの獣を追い立てる間もシャステルはマイペースで、聖書を読み、神に祈りを捧げていました。
そして、その祈りの最中、ついにジェヴォーダンの獣がシャステルの眼前に現れます。
しかし、不思議な事に、獣はシャステルの祈りが終わり、銃を構えるまで静かに待っていました。
シャステルが構える銃に装填されているのは、銀の弾丸。聖母マリア様が刻印されたメダルを溶かして作ったものでした。
そして、シャステルはゆっくりと狙いを定め、一撃で獣を沈めました。
ジャン・シャステル
以後、獣が村に現れることはなく、村人達は平和に暮らしましたとさ。
獣の正体
最初に書いた通り、真相は未だに不明です。事件が起きたのは250年も昔のこと。おそらく今後も新たな証拠が発見される事はないでしょう。
今でもジェヴォーダンの獣の正体については議論がなされており、実際、獣の正体については、およそ我々が思いつき得る殆どの説が出尽くしています。
以下サラッと列挙してみると、
巨大狼説
これは、ちょっと前にネットで話題になった巨大狼ですね。けっこうあちこちで発見されているみたいです。
こんなのが襲いかかって来たら、諦めるしかありません。
狼犬説
狼犬は、狼と犬を交配させたものです。
狼犬の特徴の一つに非常に高い知能と跳躍力があります。これは、目撃証言にもありました。
また、狼犬には虎毛が多く、これも獣の特徴と一致します。
シマハイエナ説
当時、富裕層が海外の珍しい動物を取り寄せるのは、珍しい話ではありませんでした。
シマハイエナは大きいもので体長1.2m、体重55kgと意外に大きく、また、その名の通り背中に縞模様があります。
さらに、ハイエナは、人を襲う時顔からいくらしいです。これも獣の特徴と一致します。
チンパンジー説
チンパンジーは、あの愛嬌とは裏腹に、実は凶暴で危険な生物です。
二足歩行したという目撃談や、一部の死体の損傷度合いからこの説が浮上したようですが、他の目撃談と整合が取れないので却下。
狼の毛皮を被った人間説
ピエール・ブランという村人が獣に襲われ、3時間格闘した際には、獣は2本脚で立って戦い、さらにピエールにお腹についてるボタンらしきものを見られています。
また人語を話すといった目撃証言や、首を刎ねられた死体等は、明らかにオオカミの毛皮を被った人間の仕業です。
獣の騒動に便乗した犯罪行為があったのは間違いないところでしょう。
他にもUMA説や宇宙人説がありますが今回は無視するとして、目撃証言を総合してみると、獣の正体は「デカいオオカミ」か「狼犬」か「ハイエナ」のどれかだったというのが妥当かなと思います。
黒幕
この事件、実は黒幕がいたとまことしやかに言われています。
一連の事件に登場する人物の中で、あからさまに怪しい人物がいますね。
それはズバリ、ジェヴォーダンの獣にトドメを刺した、ジョン・シャステルです。
怪しいポイントは以下の通り。
①トドメを刺した時の話がおかしい
あれだけ暴れまわった獣が、なぜお祈りが終わるのをおとなしく待つのか。
また、銀の弾丸は真っ直ぐ飛ばないため、命中率が極端に低いという点も疑惑の一つです。
一撃で仕留める為には、かなり近接して射撃する必要があります。
②嫌われ者が英雄に
元々、シャステルは酒飲みの暴れん坊で、村人から嫌われていました。
また、彼の息子はアフリカ帰りで、蛮族に去勢された、変な動物を飼っている、という噂もあり、要は変人一家と見られていました。
そんな彼も、ジェヴォーダンの獣を仕留めて以降、英雄となります。一番得した奴が怪しいというのはミステリーのセオリーですね。
③証拠っぽい事実
シャステルは、火縄銃の名人アントワーヌの捜索を邪魔して投獄されていた時期があります。
投獄されていた期間、何故か獣の襲撃は極端に少なくなっています。
以上の事から、ジェヴォーダンの獣を仕留めたシャステルこそが、ハイエナ(もしくは狼犬)を訓練して、村人を襲わせた黒幕だという説があります。
シャステルがこの凶行に及んだ動機としては、当時のジェヴォーダン地方の宗教的な背景があると言われています。
この地域は元々プロテスタントが大勢を占めていましたが、国王の命により無理矢理カトリックに改宗させられていました。
そういった中、プロテスタント側から依頼を受けたシャステルは、カトリック教徒を殺害する為にこの事件を演出したという…。
事実、獣の襲撃エリアはカトリック地域に限られており、犠牲者はほぼ全員カトリック教徒だったと考えられます。
なにやら出来すぎた陰謀説ですが、想像力を刺激してくれる説でもあります。
歴史学では、ただの狼の襲撃が大げさに伝えられただけだというのが通説のようですが、それではこの大事件の結論としては少々物足りないですよね。
なお、ジェヴォーダン地方はド田舎ですが、この事件での知名度と、サンティアゴ巡礼ルート上に位置するため、まあまあ観光地として機能しているようです。
すごく・・・のどかです
「ジェヴォーダンの獣」像もあります
大半の日本人は一生行かずに終わりそうですが、もし行かれた方がいたら、レポおなしゃす。
コメント (27件)
はじめて知りました
襲撃の始まりのところ年数間違ってるようです
Wikipediaの面白項目や雑学サイトが好きでよく読み漁ってるんだけど
管理人さんのまとめもセンスよくて最近のお気に入りっす
今回も楽しかった!また色々教えてほしい!
これは映画見に行ったなぁ
聖書読んで神様にお祈り捧げるような人が、聖母マリア様が刻印されたメダルを溶かすかなぁ・・・。
チンパンのリンク先タイトルにふいたwww記事のなかのチンパン叩きにもふいた
こういうオカルト寄りのまとめも面白いな
映画版の悪役貴族のカッチョイイ骨剣は、ガリアンのオマージュ?で、アレはDVD借りて御釣り来たわ。
どっかの博物館にジェウォーダンの獣としてシマハイエナが収められてた記憶があるらしい
毎回面白い記事ありがとう!
どこからネタ仕入れてきてるんでしょうか?
>二本脚で歩いていた、人語を話した、人の背丈ほどもある塀を軽々と飛び越えた
獣の巨人のモデルじゃね?
じぇぼーだん除け者
ハイエナだと思うに+1票。
理由:数年前アフリカ某国首都に短期間住んでいたが、首都にハイエナがまだいた。
その某国民曰く、
『ハイエナは、子供特に赤子を狙い赤ん坊の泣き声を真似する。別の部屋で赤子が泣いてると思って放っておくと居なくなっている。アフリカではよくある事。前は良く有ったよ』
別の人。
『犬がやかましく咆えるからすぐに奴らが着た事が解るよ、匂いがきついからね。バリバリ肉食、暗闇なら女子供襲われる。良く羊を襲い、牛も襲える。』
とのことです。
その国の地方にはハイエナ餌付けショーが有るので危険ではあるが飼う事は不可能ではなさそうですよ。
懐かしい
昔映画で観たな
この映画 小学生の頃見て始めて
なんやこれ
ってなった映画だったな
映画では思いっきり「怪獣」でしたね
映画の方はデザインはカッコ良かったがあとはさっぱりだったな
このまとめはとても面白かったです
映画は結構面白かったと思う。特に従者が肉体担当に対して主人公は頭脳担当と
思わせといて実はメチャ強かったというのにワロタ。
映画はヒロインの兄貴が気持ち悪かった。
現代でも多少の尾ひれがつくんだから、証言をまともに信じるのは難しい時代だな。
200回以上も襲撃があったようなケモノなら、全てを合わせて一つの正解なんじゃなかろうか。
シャステルの獣が剥製化された記録があってもいいようなものだが、ないなら町で始末されたのか。
竹中平蔵(アメポチ買弁家)
TOKYO MX NEWS NEXTに出演
東京MXテレビ
午後8時〜
こういった記事には、参考文献の書籍名・URL等を記載されるのが適当かと存じます。
王の面子立てるために討伐中止になって見捨てられてんのにシャスティルの獣を剥製にするなんて王に唾はくまね出来んだろ
人間が犯人と予想
魔物やな(確信)
シャステルが飼っていたハイエナ説に一票。
当時のフランスではハイエナを飼っていた人がいたしな。しかも、シャステルはアフリカに行ったことがある。
ただ、プロテスタントとカトリックのくだりは、シャステルはカトリック側での英雄的な扱いになっていたから、無理な改宗によって住民の支持が集まらないカトリック側がシャステルに頼んだという線もありえる。
テレビで見た、頭骨があるとかで狼犬って検証されてた
なんでだろう。この管理人さんの記事を読むとマスターキートンのワクワク感を思い出す。