この画像が本物だと思ってた時期が俺にもありました。
「呪」という字を目にすると、人間の負の感情や降りかかる災いのような、悪いイメージが自然と湧き上がってきますね。
しかし、「呪」には、「のろい」だけではなく「まじない」という読み方もあります。本質的には良い意味と悪い意味を両方含んでいるわけです。
いわゆる貞子的なヤツだけではなく、占い・お祓い・祈祷など、超自然的な力を利用する行為全般を指します。
科学万能主義の現代にあっても、こういった「呪術」は未だに現役。
特にアフリカや中南米では、ウィッチドクター(呪術医)と呼ばれる職業が、お医者さん・宗教家・ご意見番として活躍しています。
呪術医
呪いのかけ方、解き方
1930年代のアメリカ・アラバマ州で、実際に呪いによって死にかけた人の例があります。
その人の名前はヴァンス・ヴァンダース、当時60歳の黒人男性です。
ある日、病院にヴァンスが担ぎ込まれます。数週間前から、栄養をほとんど取れなくなり、急激に衰弱してしまったということでした。
しかし、担当医がいくら検査をしても、体に異常はありません。もうこのまま衰弱していくのを見ているしか無いのかと思われたとき、担当医はヴァンスの妻から、ヴァンスにかけられた呪いの話を聞きます。
その呪術医は、ヴァンスに得体の知れないイヤな匂いのする粉末をふりかけ「今お前に呪いをかけた。お前は間もなく死ぬだろう。」と言った。
続けて「医者にかかっても無駄だ。お前はもう死ぬと決まったのだ。」と告げた。
ヴァンスはそのことにショックを受け、ふらふらになって帰宅し、それ以来急激に体調は悪くなっていった…。
当時のアラバマのあたりでは、呪術は強く信じられており、黒魔術などと合わせて一般的なものでした。それに加えて、墓地という場所、イヤな匂いを放つ謎の粉末、医者にかかっても無駄だという念押し。
担当医はこれが衰弱の原因に違いないと考え、ヴァンスを救うために大掛かりな演技を仕掛けます。
家族などを含め、10人あまりが集まった病室で、担当医はしっかりとした声でヴァンスに語りかけ始めました。
「あなたに呪いをかけた呪術医を脅して、呪いの内容を白状させた。奴はあなたにトカゲの卵をこすりつけたのだそうだ。
奴が言うには、トカゲの卵は皮膚から潜り込み、胃の中に達している。そのトカゲが、あなたが食べたものや周りの内蔵を食い荒らしているのだ。」
担当医はここで看護師を呼び寄せ、「そのトカゲを今から追い出す。」と言いながらヴァンスに注射をしました。
すると少し時間をおいてヴァンスは激しく嘔吐し始めました。担当医はそれに合わせ、こっそりと鞄の中に仕込んでおいた緑色の大トカゲを放ちました。
「ヴァンス、これをごらん!こいつがキミの胃から出てきた。
もう大丈夫だ、呪いは解けたよ!」
担当医にそう言われると、ヴァンスは驚くと同時に眠りに落ちました。
眠りから醒めたヴァンスは、すっかり健康になり、老衰で亡くなるまで何事もなく過ごしたとのこと。
「思い込み」の力
こういった事例は、人間の「思い込み」の力によるもの、という事で合理的に説明出来ます。
有名な、プラシーボ効果、ノーシーボ効果というヤツです。
ヴァンスに注射された液体は、実はただの吐き気を誘発する薬。
言うまでもなく、トカゲも、呪術医を問い詰めたというストーリーも、担当医が準備したものです。
ヴァンスは、不気味な状況と演出により「呪いで死ぬ」と刷り込まれて自ら体調を崩していき、担当医は「呪いは治った」という別の思い込みを刷り込むことで、見事にヴァンスを治療しました。
要は、悪いまじないに対して、別の良いまじないを上書きしたわけです。
この例は、典型的なブードゥー死と言えます。(※参考:とある民族に特有の精神疾患)
本人や社会に呪いの存在を肯定しているという下地があれば、その人が属する文化圏におけるスタイルに則って、適切に「儀式」を実施することにより、ノーシーボ効果(呪いの効果)が発現します。
藁人形と五寸釘
こういったノーシーボ効果は、なにもブードゥー教信者に限られません。
例えば、日本でも、丑の刻参りという立派な呪いがあります。
丑の刻参りの方法は時代や地域でかなり変化していますが、現代の我々がだいたい共有しているルールは、次の通りです。
・場所はもちろん神社。
・ドレスコードは白装束。
・ロウソク3本を五徳に挿して、頭に被る。
・藁人形に呪いたい相手の髪の毛等を埋め込み、五寸釘を打ち込む!
・行為を見られたら、呪いが自分に返ってくる。
この丑の刻参り。
当たり前ですが、本当に誰にも見られずに実行したら、たぶん何の効果もありません。本人の気晴らしにはなるかも
「見られてはいけない」と言いつつ、実際はチラ見させるのが目的。
「見られてはいけない」というのは、裏を返せば「いけないものを見た」と思わせる為のルール。
だからこそ、この目立つドレスコードかと。
こんな格好でウロウロして、人に見られない筈が無い
これを目撃した人は、さすがに「ヤベーもん見ちった」となるでしょうし、周囲に言いふらします。それが本人の耳に入れば、精神に与える影響は少なくありません。
信心深い地方ほど、その影響は深刻になったことでしょう。
現代人だって一緒
ここまで読んで下さった、そこのあなた。
まさか、「土人乙www」
とか思っていませんか?
そういう我々だって、個人差はあれど、プラシーボ効果が普通にかかるのです。
一番有名なのは、偽薬効果。簡単に言うと、お医者さんから砂糖の塊を「頭痛薬だよ」と言われて飲まされると、頭痛が治まっちゃう!みたいな話です。
偽薬が効きやすいのは、「痛み」「下痢」「不眠」といった症状らしいです。
この話、よくよく考えれば、「呪い」の構図と似てますよね。
我々が暮らす社会では、薬は効くと広く一般に認められている。そして、実際にそれまでの人生において、お医者さんから薬をもらって病気が治ってきたわけです。
こういった下地から、医療に対する信頼は、ある種の信仰に近いレベルになっています。
科学や医学を否定してるわけではありません。客観的な実験データや研究を積み重ねてきたものである事に、疑いの余地はありませんし、プラシーボ効果とか関係なく、薬は効きます。
ただ、医療に詳しくない個人の目線では、「薬が効く理屈は分からないが、医者がくれたものだから効くはず」という前提が、確かに存在するのです。
現代人の「思い込み」
「呪い」や「偽薬効果」のような、思い込みが実際に体に影響するという事例は、身近なところにもあります。
例えば、肩コリ。
外国人は肩が凝らないというのはけっこう有名ですね。
という説です。
実際のところ、これはやや誇張された表現で、日本人が言うところの肩コリと同じ症状は、外国人にも起こります。
英語では”stiff neck(硬直した首)”とか、単に”neckache(首の痛み)などと表現するようです。
しかし、これらは日本語の「肩コリ」と同一の意味ではありません。例えば、寝違えて首が痛い場合にも、”stiff neck”が使われます。
なので、いわゆる肩コリのあの症状を、明確に独立した症状として捉えているのは日本語を使える人だけと言えます。
実際、外国人は”stiff neck”になっても別に深刻に受け止めません。せいぜい「軽く運動すればおk」みたいな感じです。
一方、「肩コリ」という概念を持ってしまった日本人は、仮に同じ程度のコリだったとしても、自覚症状は外国人より重くなってしまいます。そのため、マッサージ・指圧・整体・塗り薬・飲み薬など、あらゆる手段で一生懸命治そうとするわけです。
「概念を発明する」という呪い
とはいえ、まぁ肩コリ程度なら、命に別状はありません。
ところが、もしかすると我々は、もっと巨大な「呪い」にかかっているかもしれません。
その呪いとは、ズバリ「ストレス」。
「ストレス」の概念が世間に広まったのは、1936年のこと。ハンス・セリエというカナダ人の学者によって提唱されました。
ハンス・セリエ博士
生物が外部から刺激を受けると、身体はそれに対抗するために、その刺激の種類に関わらず、特定のホルモンを分泌します。
これをストレス反応といい、ストレス反応を引き起こす要因をストレッサーといいます。ストレッサーは、物理的、心理的、化学的など、あらゆる種類の刺激を含みます。
例:
暑さ、寒さ、痛み、快感、騒音、毒、薬、ばい菌、喜怒哀楽、etc…
こういった反応が存在し、心身に影響を与えることは事実です。例えば、長期間のストレス反応によりコルチゾールというホルモンが過剰に分泌されると、記憶を司る海馬が萎縮してしまう事が分かっています。
しかし一方で、次のような研究結果があります。「ストレスと友達になる方法」より
アメリカで、成人30,000人を対象として、8年間にわたりストレスと健康との関連について調査が行われました。
この研究を行った、ケリー・マクゴニガル女史。美人。
その方法は、
①あなたはこの一年間、どれくらいストレスを感じましたか?
②ストレスは健康に悪いと思いますか?
このアンケートをとった上で、以後8年間にわたり追跡調査を行うというもの。
その結果は、重度のストレスを感じていて、ストレスが健康に良くないと信じている人の死亡率が一番高いものでした。ここまでは、まあ順当ですね。
驚くべきは、重度のストレスを感じていて、ストレスが健康に良くないと信じていない人の死亡率が、非常に低いものだった事です。
この事は、ストレスを実際に受ける事と死亡率の間に相関関係が無い可能性を示しています。むしろ、「ストレス=害」と意識したがために、死亡してしまったという見方もできます。
この研究では、アメリカでストレスの害を信じてしまった為に寿命を縮めてしまった人が、年間20,000人いると推定。「ストレス=害」という信仰は、アメリカ人の死因の15位で、これはエイズや殺人よりも上位であるとしています。これが事実であれば、まさに「現代人にかけられた呪い」と言えます。
「ストレス」を提唱したハンス博士に悪意はなかったでしょうが、この研究を利用して商売をしようとする輩によって、ストレス反応の害がどんどん強調されていったのです。
最近、フィリップ・モリス社を初めとするタバコ業界が、ハンス博士のストレス研究に対して多大な資金援助をしていた事が判明。
タバコの害から人々の目をそらす為だったと考えられています。
参照:「ストレス」という概念を80年前に生み出した研究の裏に潜む巨大産業の影とは?
まとめ
このように、一度形成されてしまった信仰を「上書き」するのは簡単な事ではありません。
しかし、なるべく細かいことを気にせず適当に生きる事こそが、長生きの秘訣かもしれません。