アメリカ人で「進化論」を信じていない人は、半数近くに登るとかいう笑える調査結果があります。
宗教観の違いもあるのでしょうが、日本人は比較的すんなりと進化論を受け入れている民族だとは思います。
しかし、生物の複雑な器官や多様性を見てみると、本当に偶然の積み重ねでこんなになるのか?という疑問を持ってしまう事もあるのではないでしょうか。
キリンの首はなぜ長い?
ベタな質問ではありますが、進化論について考える時、避けては通れない質問です。しかも、たまに勘違いしている人もいるという。
一見それっぽいけど、間違いなんだぜ、これ…。
現在、キリンの首が長くなった理由は突然変異と自然淘汰で説明されています。
つまり、親が毎日一生懸命首を伸ばしていたから子供の長くなったのではありません。そしたらボディビルダーの子供もマッチョになっちゃいます。
従って、
↓
そいつは他の首の短いキリンより葉っぱを食べやすかった。つまり、生き残るのに有利だった。
↓
首の短いキリンより子孫を残せる確率が高いので、首の長い子供が増える。
これが正しいロジックです。
もうちょい説明してみます。
自然選択(自然淘汰)
これは、ダーウインが提唱した進化論の根幹を成す概念です。
首の長いキリンの方が、生き延びるのに有利だったというヤツですね。
生き物が暮らす環境では、その個体の生存率に様々な影響を与えます。ごくごく一部の例をみてみます。
・寒い地域なら体の表面積の割合が小さくなるよう、巨大化した方が有利
・エサが少ない地域では、体が小さい方が有利
・ジャングルの中なら敵に見つかりにくい緑色の体の方が有利
・体が派手な色の方がメスにモテて有利
・かわいい見た目の方が人間に愛されるので有利
自然環境だけでなく、社会的、人為的な影響もあり、様々な要因が超複雑に絡み合った結果が今の生態系だということです。
犬なんかは、だいたい1.5万年くらい前にオオカミから犬(家畜)になり、品種改良が始まったのは数千年前と言われています。
人間が恣意的に淘汰するのは、自然淘汰とは比べものにならないくらい強い影響を与えます。現在の多種多様な犬種を見れば、確かに選択圧によって様々な種類に分化していくのがお分かりになると思います。
なお、選択圧は一方向ではありません。
キリンの例を見てみると、当たり前ですが、首が長い事にはメリットとデメリットがあります。
メリット
・高い位置の葉っぱを食べられる
・高い位置から遠くまで見渡せる(敵を発見しやすい)
デメリット
・首を支えるために体をゴツくしなくてはならない
・頭が遠いので心臓に負担がかかる
メリットは首を長くする方の選択圧で、デメリットは首を短くする方の選択圧です。
この両方向の選択圧の丁度釣り合いが取れた首の長さが今のキリンという事になります。
突然変異
進化論のもう一つの重要な概念が、この突然変異です。
まぁ意味は分かると思いますが、突然遺伝子が変わっちゃうわけですね。
だいたいは、細胞分裂の際のDNAの複製ミスや、放射線や化学物質等でDNAが損傷する事によって起きます。
細胞分裂の様子(タマネギ)
殆どの場合、突然変異は癌や機能不全を引き起こすのですが、稀に生存に有利な変化を招くケースがあります。
これが、進化の原動力となります。
ただし、一つ一つの突然変異が起こす遺伝子の変化は小さなものです。
キリンの首がいきなりグンと伸びたわけではなく、少しずつ少しずつ伸びていったのです。
反論1:証拠が無い件
ミッシングリンクという言葉を耳にした事があると思います。
ある種と種の間の進化の途上にあるべき、まだ発見されていない中間の生物の化石です。
キリンの進化が突然変異による小さな変化の積み重ねだとするならば、首の長さが中位の化石が見つかるはず。なのにその化石は見つかっていません。
見つかっているのは首の短いキリンの化石と、現在の首の長いキリンだけです。
首の短いキリンの化石。DNA鑑定で、キリンである事は確定しています。
なぜ中位の長さの化石が無いのか。この点は、突然変異と自然選択だけではうまく説明できません。
「証拠(途中の化石)が無い」という点を説明する方法は2つ。
一つは「たまたま」。
化石になるというのはとても稀な事なので、中間の化石が無いのも考えられない事ではありません。
もう一つは、「化石が残る暇も無く、あっという間に進化した」です。
本来、突然変異だけで急激な変化は起こらないとされていますが、可能性としてはあり得ます。
反論2:確率が低杉
突然変異(DNAのコピーミス)が発生する確率は、1遺伝子あたり1/10万~1/100万と言われています。さらに、そのコピーミスが、生存に有利な変異である確率はさらに低く、天文学的な数字(1/10の600万乗とか)になっていきます。
しかも、種の分化が起こるほどの大変化が起きるには、同時にたくさんの有利な変異が関連して発生しなくてはなりません。
例えば、爬虫類が鳥類に進化するのを考えてみましょう。
鳥になる為には、体に羽毛が生え、前脚が翼となり、羽ばたく為の強靭な胸の筋肉をつけ、口が嘴となり、骨が空洞化して体を軽量化させて…とたくさんの変異が起きなくてはなりません。
しかし、これらの一つ一つは必ずしも爬虫類にとって生存に有利な変化ではないのです。
飛べないのに羽毛が生えても暑いだけですし、前脚が翼の形になっただけなら歩きにくいだけですし、骨が空洞化しても体が脆くなるだけです。
つまり、これらの変異は同時に起こらない限り有利な変異ではないのです。
そのため、「自然淘汰では説明できない!」となるわけです。
この事は、よく「猿が適当にタイプライターを打ってシェイクスピアの作品を書く」とか「バラバラの部品が竜巻に巻き上げられて飛行機が完成する」なんて例えられます。
実際ムリっぽい?
このように、「自然淘汰」と「突然変異」によって進化を説明するのは、今のところ最も正しそうなのですが、完璧な理論かと言うと、そうとも言い切れない部分があるわけですね。
ウイルス進化説
こういった疑問点を説明する説の一つが、「ウイルス進化説」なのです。
ウイルス進化説と聞くと、ジョジョのスタンドのルーツの話を思い出す方も多いと思います。
偶然に生き残る素質を持つ者もいる…
そしてウィルスは、生き残った者に、ご褒美のように「新しい生命能力」を与えるというのだ。
ポルナレフ談
スタンドが使えるようになるウイルスなら、是非チャレンジしてみたいものですが、残念ながらこれも正しい理解ではありません。
ウイルス進化説とは、端的に言うと、ある種がなんらかのウイルスにより一斉に病気になり、結果的にそれが進化となったという説です。
キリンは一斉に首が伸びる病気にかかった、みたいな話です。だから進化が一気に進み、中間の化石が見つからないのかもしれません。
実際、ウイルスの仕組みを見てみると、宿主のDNAを書き換えるものがいる事は事実です。HIVウイルスなんかは、ヒトの免疫細胞のDNAを書き換えて、免疫不全にしてしまうわけです。
リンパ球に結合するHIVウイルス
HIVやエボラ等は不利な書き換えですが、ウイルス自身に人間をやっつけてやろうなんて意思はありませんから、中には有利な方向に書き換えてくれるウイルスもあるのかもしれません。
ま、所詮はトンデモ扱いされている説なので、そんなウイルスはおろか、ウイルスによって進化した実例すら見つかっていないのが現状ではありますが。
進化論の説得力
では、ウイルス進化説がトンデモならば、本流の進化論ではどういう説明をしているのでしょうか?
まず、キリンのミッシングリンクについては、そもそも化石になるケース自体がレアだということ。
そして、よく引き合いに出されるキリンについては確かに中間の化石が見つかっていませんが、ウマやゾウなんかは各進化段階の化石がキッチリ見つかっていたりもします。
ゾウの進化系統図
また、進化の確率の低さについては、確率の低さを指摘する側に誤解(曲解)があるとしています。
分かりやすいよう、先の「爬虫類から鳥類」の例でみてみましょう。
羽毛とか翼とか、たくさんの変異が同時に起きなくては鳥にならないと書きましたが、実は正確ではありません。
というのも、例えば最近羽毛の生えたティラノサウルス(の祖先)の皮膚の化石が発見されたりしています。
カッコ悪い…
この事から、恐竜にはある時期から普通に羽毛が生えていて、元々は保温の機能を持つものだったのでは、と言われています。
ある機能が今と同じ使われ方をしていたとは限らないのです。
翼にしても、初めは滑空に使っていたものが、たまたま胸筋が強い個体が生まれ、羽ばたく事を覚えたのかもしれません。
また、進化の順番も、個体によってマチマチだったでしょう。
あるものは、羽毛と翼を持っていた。
あるものは、翼と嘴だけを持っていた。
あるものは、胸筋と空洞化した骨だけを持っていた。
みたいに。
このように、変異は様々なパターンで蓄積されていくのです。そして、それぞれの個体が自然淘汰を経て、交配やさらなる変異により、あらたな形質を獲得して、さらに自然淘汰を受けて…という感じで進み、最終的に辿り着いたのが、今の形なのです。
ですので、変異の蓄積を加味した確率を考えないとならないわけですが、これはなかなか難しいみたいですね。
イメージしやすい例として、「10枚のコインを投げて全て表を出せば勝ち」というゲームを想像してみてください。
否定派は、全てのコインが同時に表が出るまで、毎回10枚のコインを投げようとしています。確率は1/1024ですね。
一方、肯定派は、1回目で表が出たコインは除いて、裏が出たコインだけ2回目に降ろうとしています。これなら3~4回コインを投げれば終わりそうですね。
変異の蓄積とはこういう意味です。
まとめ
最近の進化論は、遺伝子学や分子生物学といった、先端的な学問領域からも成果を取り入れ、総合進化説と呼ばれたりもしています。
その成果の一つが、「分子時計」というもの。
分子時計とは、DNAの突然変異の発生確率が一定であるとした場合、異なる動物間のDNAの配列を比較してその違いの度合いにより、種が分かれた時期を推定するというテクニックです。
ヒトとチンパンジーでこれを調べてみた結果、共通の祖先から分かれたのは約500万年前という結論が導かれました。
これは、進化論者からしてみると、予想よりかなり最近の事だったようです。
こういった結果を受けた時、「確率的にあり得ない!」と考え、創造論やID論等のある種の思考停止に走るのも一興です。
ですが、万物の霊長としてはやっぱり「たったの500万年でサルからヒトへと進化したのはどういうメカニズムなんだろう」と知的好奇心を刺激された方が、楽しいかもしれません。