ご存知の通り、今のところ人類が創り上げた最強の兵器は核兵器です。
核兵器は、昔ながらの火薬を使った爆弾と比べて、文字通り桁違いの威力なので、もう適切な使い所がないという…。
核兵器の種類
核兵器は、大きく分けると、
原爆(原子爆弾)
と
水爆(水素爆弾)
の二種類になります。
日本が投下されたのは原爆の方ですね。
原爆は「核分裂」を利用し、水爆は「核融合」を利用しています。
核分裂とか核融合というのは、原子核がくっついたり分裂したりするという意味ですが、その時にすごいエネルギーを出すのですね。それを利用して大爆発を起こすのが、核兵器なのです。
原子のしくみ
原子の構造
全ての物質は原子の集合体です。
原子爆弾の材料となるウランやプルトニウムもそうです。
その原子というのは、
①陽子(プラスの電気を帯びている)と、
②中性子(全く電気を帯びていない)と、
③電子(マイナスの電気を帯びた)
の3つから構成されています。
陽子と中性子がくっついて「核」を構成し、その核の周りを電子が飛び回っています。
陽子と中性子は合わせて「核子」と呼びます。この核子同士がくっついて原子核になるわけですね。
陽子の数
原子は、原子核に含まれる陽子の数によって、その性質が決まってきます。
これ、理科の授業で見たことありますよね。主だった原子の種類を左上から右に向かって陽子の数順に並べたものです。
最も軽い水素の原子核は、陽子1個。
2番目に軽いヘリウムの原子核は、陽子2個。
原爆の材料で有名なウランの原子核には、92個の陽子が含まれています。
質量欠損
この世の全ての物質の原子核には、陽子と中性子(=核子)が含まれていますが、 陽子と中性子はほぼ同じ重さなので、核子の数が多ければ多いほど原子は重くなっていきます。
しかし、単純に増えていくわけではありません。
ここで問題です。
・ヘリウム原子は陽子2個、中性子2個
では、ヘリウム原子は水素原子の何倍重いでしょうか??
シンプルに考えれば、答えは「4倍」です。
しかし、実際にその重さを比べてみると、3.97倍なのです。
不思議ですね。
核子は、結合するとバラバラの時より軽くなるのです。
この現象を、「質量欠損」と言います。
では、この減ってしまった質量はどこに行ったかと言うと、核子同士の結合エネルギーに変換されています。
核子同士がギュ〜ッとくっつく、この「ギュ〜ッ」の力の源が、核子の質量なのです。
ここで出てくるのが、アインシュタインの有名な公式、
エネルギー=質量×光速度の2乗
です。
これが表しているのは、エネルギーは質量であり、質量はエネルギーであるという事。
禅問答のような話ですが、その実例がこの質量欠損なのです。
なお、「ギュ〜ッ」に必要なエネルギー(=質量)は、物質の種類によって異なります。
このグラフはかなり大事。よぉぉく見ておいてください。
横軸は核子の数。
右に行くほど重い物質になります。
縦軸は質量欠損の度合い。
上に行くほど質量がたくさん減ります。
このグラフを見てみると、核子の数が60個くらいの所が、一番質量欠損が大きくなっていますよね。
質量欠損が大きいという事は、核子同士の結合エネルギーが大きいという事。すごくギュ〜〜〜ッとくっついているのです。
鉄とかニッケルとかが、「最も安定している物資」と言われているのはその為です。
水素から鉄までの物質では、核子の数が増えるに従い、核子あたりの質量はどんどん軽くなります。
そして、鉄より重い物質になると、核子の数が増えるほど、核子あたりの質量はどんどん重くなります。
いったんまとめ。
さて、文系の皆さんの為に、ここまでの話をまとめてみます。
①原子は、「原子核」とその周りを飛ぶ電子で出来ている。
「原子核」は、「陽子」と「中性子」がくっついて出来ている。※「陽子」と「中性子」を合わせて「核子」と呼ぶ。
原子核に含まれる核子の数でその原子の種類や性質が決まる。
②核子がくっついて原子核になると、くっつく前より質量が減る。
減った分の質量は、核子同士が結合する為のエネルギーに変わる。これを「質量欠損」と言う。
③質量欠損が一番大きいのは鉄。
それより重い物質になると、質量欠損は小さくなる。
核分裂した結果www
こういった原子核の特徴を利用したのが、核分裂反応なのであります。
核分裂反応とは、原子核が分裂する事です。そのまんまですね。
1つの重い原子核が、2つのより軽い原子核に割れ、その時ついでに2~3個の中性子がフリーになって飛び出します。
ウランの場合。
この時、ウランがより軽い原子2つに変わるわけですが、ここで例のグラフを見てみましょう。
ウランのように核子の数が200個以上もある原子核と、核子の数が100個位の原子核を比較してみると、100個位の原子核の核子の方が軽いわけです。
便宜的に、ウランの原子核の重さを200mgと想定して、真っ二つに割ってみましょう。
ウランを真っ二つに割ると、割れた後の原子核の重さは、100mg・・・にはなりません。98mgくらいになります。
もともと200mgだったウランですが、二つに割ると、「98mg+98mg=196mg」となり、4mgほど軽くなるのです。※この重さは適当です。本当はもっと遥かに軽い。
しかし、この余った4mgの行き場はないので、”E=MC2“の公式の通り、熱エネルギーに変換されるのです。
これが、核分裂反応を利用してエネルギーを得る基本原理です。
核融合の場合
なお、補足ですが、この方法でエネルギーを取り出せる物質は、鉄より重いものに限ります。
なぜなら、鉄より軽い物質は、原子核を割ると質量が足りなくなるからです。
鉄より軽い原子核(重さを仮に20mgとします)を真っ二つに割ると、10mgではなく、10.5mgになるのです。
もともと20mgだった物質を二つに割ると、「10.5mg+10.5mg=21mg」となり、1mgの質量が足りなくなります。
この足りない質量を補うためには、逆にエネルギーを加えてあげなくてはなりません。損するだけなので、誰もやりませんけどね。
というわけで、鉄より軽い物質からエネルギーを得ようとする場合、逆に核融合を利用することになります。
その考え方は核分裂の逆で、「核子をくっつけて余ったエネルギーを取り出そう」というものです。
例えば、水素をくっつけてヘリウムを作る場合。
水素原子には1個の核子、ヘリウム原子には4個の核子が含まれています。
そこで、水素原子を4個くっつけてヘリウム原子を一個作るわけですが、「1mg+1mg+1mg+1mg」の結果は、4mgにはなりません。
ヘリウムの方が質量欠損の度合いが大きいので、ヘリウムの質量は3.96mgとなります。
もともと4mgだったものが3.96mgになり、質量が0.04mg余りました。
この余った0.04mgをエネルギーとして取り出すのが核融合という考え方なのです。
人為的に核分裂反応を起こすには
では、どのようにして原子核を分裂させればいいのでしょうか。
科学者たちは、試行錯誤の末ついに、ウラン235という物質の原子核に中性子をぶつけると、その原子核が2つに割れる事を発見します。
代表的な原子爆弾の材料であるウランには、主にウラン235とウラン238があります。この235とか238という数字は、核子の数を意味しています。
ウランの陽子数は92個と決まっていますので、残りの数が、中性子となります。
ウラン235なら中性子は143個。ウラン238は中性子は146個です。
しかし、中性子たった3個の違いですが、なぜかウラン235の方が不安定。
これに中性子を1個ぶつけると、一瞬だけウラン236になりますが、不安定過ぎるためすぐに二つに分裂してしまいます。
この時に、2~3個の中性子と熱エネルギーが放出されます。
もしこの時、すぐ隣にもウラン235があったらどうなるでしょう?
飛び出した中性子が隣のウラン235の原子核にぶつかるので、さらにエネルギーと2~3個の中性子が出てきますね。
こうして、連鎖反応的に核分裂を起こす事が出来るのですね。
このウラン235は結合が不安定過ぎて、ほっといても一定の確立で核分裂します。しかし、ある程度まとまったウランの塊でないと、核分裂反応が連鎖する事はありません。
このある程度の量を、「臨界量」と言います。
原子爆弾のしくみ
日本に投下された原子爆弾は、リトルボーイ(広島)とファットマン(長崎)。
今度は、この二つの爆弾の仕組みを見てみましょう。
リトルボーイ
リトルボーイは、人類史上初めて実際に使用された原子爆弾です。
用いられた形式は、「ガンバレル型」と呼ばれるもの。
ガンバレルとは、砲身という意味で、文字通り爆弾の中に砲身がはいっています。
これが中身です。ウラン235の塊が砲身の両サイドにあり、片側のウラン235の裏には火薬が仕込まれています。この時点では、どちらも臨界量以下です。
片側に仕込まれた火薬を炸裂させると、ウラン235が砲身内を移動してもう片方と合体、1つの大きな塊になり、臨界量を超えて一気に爆発するのです。
リトルボーイには50kgのウラン235が搭載されていましたが、そのうちの1kgが核分裂を起こしたと言われています。残りは吹っ飛んでいきました。
1キロのウラン235が全て核分裂するのが、だいたい1億分の1秒くらい。あっという間に連鎖して爆発します。
この時の爆発の大きさは、TNT火薬に換算すると15,000トン分でした。核分裂のエネルギーがいかに効率的か分かりますね。
ファットマン
こちらは、リトルボーイと比べて随分丸っこい形です。
ファットマンはインプロージョン型という形式で、中にはこのような装置がはいっています。
外側に火薬、中心部にはプルトニウムが仕込まれています。ウランと違い、プルトニウムは自然に核分裂を起こす事はありませんので、中心に中性子を放出するイニシエーターという装置がセットされています。
外側の火薬を厳密にピッタリ同時に爆発させると、中心部に向かって物凄い圧力がかかります。
すると、中心部のイニシエーターから中性子が放出され、プルトニウムの核分裂連鎖反応が起こります。
ファットマンに搭載されたプルトニウムはたったの1kg。しかしその威力は、TNT火薬22,000トン分でした。
ファットマン投下前の長崎中心部
↓
ファットマン投下後
跡形も無くなっています…。
核兵器は、非戦闘員を巻き込んだり、環境を汚染したりと、デメリットが多過ぎて、現代の戦争においては適切な使い所がありません。
もし使われるとしたら、最後の最後にヤケクソで発射するくらいでしょうか。
ただ、棍棒でポコポコ殴ってた時代と比べたら、よくぞここまで進化したなあと思ったりもします。人類の叡智の結晶の一つなのは間違いありません。
非人道的とか危ないとか、そういう観点だけで語っても建設的じゃないですよね。