サイトアイコン 腹筋崩壊ニュース

日本にオオカミは必要か?

近年、中山間部を中心に深刻化している獣害。

増えすぎた野生動物(主にシカ、サル、イノシシ)による農林水産業への悪影響です。

その農業被害額は年間200億円を超え、さらには住民の負傷など直接的な被害も増加する一方です。

戦が始まる

獣害の要因としては、
①生息域の拡大
②狩猟捕獲圧の低下
③過疎化や高齢化による山間地域の人間活動の低下
が挙げられています。

政府も様々な対策を講じてはいます。

しかし、日本社会全体の都市化・高齢化から考えると、これらの要因は今後益々顕著になっていくでしょう。

スポンサードリンク

オオカミの再導入

そんな中で度々議題に上がるのが、「オオカミ再導入論」。

つまり明治期に絶滅したと言われる日本のオオカミを再度復活させようという議論です。

里山地域は行政が管理を強化するとして、オオカミさんには人間の手が及びにくい奥山地域の個体数を調整してもらおうという訳ですね。

意外とカワイイお姿

2010年には大分の豊後高田市が自治体として導入を検討し、物議を醸しました。

また、2012年には日本オオカミ協会が、農林水産大臣と環境大臣宛に94468筆のオオカミ導入を求める署名を提出しています。

スポンサードリンク

オオカミは怖い?

オオカミ再導入を考える上で、まずその「危険」「なんか怖い」「冷酷な捕食者」といったイメージを検証しましょう。

元々奥深い山中に生息するため謎の多かったオオカミですが、信仰の対象となるケースは世界的で見られます。

ギリシア神話ではアポロンやアルテミスの母として。

古代ローマ神話では建国者の乳母として。

チンギスハンもそうですし、オオカミの血を引くという狼祖伝説は世界中で誇り高いものとなっています。

オオカミの乳を吸うロムルスとレムス

日本でも、「大神(おおかみ)」の名前が示す通り、山岳信仰やアイヌの信仰の中で神格化されました。

滅多に人を襲うことなく山の生態系の頂点に立つ動物として、畏れられながらも慕われたんですね。

オオカミに遭遇するも笙(管楽器の一種)を吹いたらなんとかなった豊原統秋さん

さて、中世に入るとヨーロッパではキリスト教が土着信仰を排除するためオオカミを利用します。

まずは、オオカミの見た目が悪魔に似ていると、強引に悪いイメージを広めます。

そうした上で、カトリック教会の言うことに3度背いたものは「オオカミ」と見なされて、罰として7年間、月明かりの夜にオオカミの姿をして野山をさまよわなければならないという、全く意味不明の掟を課せられました。

がるるー

こうした経緯から、人狼伝説が広まり、オオカミ=「悪」といった図式が定着していきました。

明治に入ると「赤ずきんちゃん」「七匹の子やぎ」などの童話と共に、日本でもオオカミが悪者となっていきました。

明治38年。奈良県での捕獲を最後に、日本からオオカミは姿を消します。

(毛皮の需要や狂犬病の流行など要因は複数あるものの)人を襲うことはまずないと言えるオオカミが「絶滅してもいいアブナイ動物だよねー」という流れになった背景には、こうした西洋発のネガティブイメージが起因しているのではないでしょうか。

スポンサードリンク

海外の事例

話を元に戻しましょう。

オオカミの再導入で成功した事例といえるのが、アメリカ北東部のイエローストーン国立公園です。

1926年に園内のオオカミは絶滅してしまいました。

しかし、それから約70年後の1995年。様々な議論、紆余曲折はあったものの再導入にこぎつけました。

その後、経過を観察していくと、植物を含む「生物多様性の増加」が見られたとのこと。

木々の若芽を食べ尽くすシカの減少や、ビーバーなどの小動物を食べるキツネやコヨーテの減少が、全体のバランスを調えなおしたのです。

同様の試みは、南部のアリゾナ州周辺でもなされ、政府管理の元で個体数が穏やかに推移しています。

こうした試み受けて、ヨーロッパでも各国で再導入が検討されていますが、森が少なく牧畜主体の土地にはリスクとなる面も大きいため慎重な姿勢が取られているようです。

逆に言えば、森が多く農業主体の日本ではイエローストーンの事例と同じ成果が期待できるのではないでしょうか。

スポンサードリンク

日本にオオカミは必要か

ニホンオオカミ終焉の地碑石像

その答えは結局のところ、少子高齢化社会や国内農林業とどう向き合うかという問いでもあると思います。

都市生活を重視してこのまま放置しておけば、古来より日本人が営々と作り上げてきた里山の多くは永遠に消え、山に飲み込まれてしまうでしょう。

一部の都市を除けば、そこら中がシカやイノシシの生息圏となり、恵みをもたらさないジャングルとなることを素敵なエコ世界だと考える方にとっては理想郷です。

そうではなく、大きな価値転換が豊かさの質を変え、日本人が再び里山で暮らすようになるならば・・・その時はオオカミが我々の古い友として、もう一度力を貸してくれるかもしれません。

以上、社会派コラムでした。たまにはこういうのも、ね。

モバイルバージョンを終了