古今東西、男たちの最も大きな悩みの一つが、
ハゲ
です。
男としての自信、自意識、誇りが詰まった頭皮に起きる悲劇。この歴史について、今回は話していきます。
記録に残る、最初のハゲ
古代エジプトで書かれた、エーベルス・パピルスという医学書があります。
およそ紀元前1550年頃に書かれたこの医学書には、避妊法、消化器疾患、寄生虫、眼病、皮膚病、虫歯、膿瘍や癌の外科手術、接骨、火傷等についての記述があり、古代エジプトの医学知識の深さを物語っています。
その中に、ハゲ治療についての記述があり、古代エジプトの漢たちも深く悩んでいたことが分かります。
壁画に残る見事なハゲ
当時のエジプト男性は、頭を剃り上げるのが普通で、余裕があればカツラを所有していましたが、やはり自ら剃り上げるのと自然に抜け落ちるのでは意味合いが異なるのでしょう。
当時のカツラ。蒸れそう。
ちなみに、その治療法とは、
これらを混ぜたものを、煮沸したヤマアラシの体毛に塗りつけ、患部に4日間塗布する。
なんかギトギトになって悪化しそうではありますが…。
旧約聖書の記述
紀元前9世紀頃、イスラエル王国で活躍したエリシャという偉い預言者がいました。
一番右の人
エリシャは、パンや油を増やしたり、皮膚病を川の水で治したり、子供を生き返らせたりと、数々の奇跡を成し遂げ、また国内に蔓延する偶像崇拝の払拭に尽力する等、ユダヤ教において最も重要な人物の一人です。
そんな彼のエピソードを一つ。
彼が道を上っていくと、町から小さな子供たちが出て来て彼を嘲り、「禿げ頭、上って行け。禿げ頭、上って行け」と言った。
エリシャは振り向いてにらみつけ、主の名によって彼らを呪うと、森の中から二頭の熊が現れ、子供たちのうちの四十二人を引き裂いた。
『列王記下』 2:23-24
・・・やり過ぎでしょ。
とはいえ、エリシャの深い悲しみが、迫力を持って我々の心に伝わってくるエピソードでもあります。
古代ギリシャのハゲ
古代ギリシャは偉大なハゲを多く排出しています。※ハゲてない偉人も、もちろんたくさんいます。
例を挙げると、
・大哲学者ソクラテス
「無知の知」という言葉はあまりにも有名。
・大歴史家ヘロドトス
歴史の父。
三大悲劇作家の一人。デウス・エクス・マキナの権威。
いずれも人類史に燦然と輝く偉人たちであります。
そんな中、今日『ハゲ頭のパラドックス』を初めとする様々なパラドックスを考案したエウブリデスも忘れてはなりません。
髪の毛がたくさんある人はハゲではない。
そこから髪の毛を1本抜いてもハゲになるわけではない。
しかし、1本1本髪の毛を抜いていくと、いずれかの段階でハゲとなる。
では、彼は残り何本の時点でハゲになるのか?
心が折れなければハゲではないと言わんばかりの、なんとも力強いパラドックスですね。
また、もう一人ハゲに深い関わりを持つ人物がいます。
それは、医聖ヒポクラテスです。
ヒポクラテス以前の医療は、まじないや呪術の延長にあるものでした。
ヒポクラテスは、医療を臨床と観察を重んじる経験科学へと発展させ、後の西洋医学に大きな影響を与えた医の巨人です。
そんなヒポクラテスは、自身のハゲに対し、己の持つ知識の全てをかけて立ち向かいました。
アヘン、セイヨウワサビ、鳩の糞、アオゲイトウ、各種スパイス等を原料とした薬を患部に塗り、懸命に戦ったヒポクラテス。
しかし、さっぱり効果は表れず、ハゲの荒々しい侵攻の前に屈する事となりました。
しかし、ただ負けた訳ではありません。
ヒポクラテスはこの時代に既に薄毛の原因の一つが男性ホルモンである事を看破しており、「宦官に痛風とハゲはなし」という至言を現在にまで残しています。
ハゲの女たらし
紀元前50年頃活躍した、古代ローマの英雄ガイウス・ユリウス・カエサル。
彼もまた、頭皮に悲しみを持つ男でした。
けなげな前髪が涙を誘う
なお、カエサルのこの前髪でハゲを隠す髪型は、「カエサルカット」と呼ばれ、ヨーロッパでは伝統的な髪型となり、現代にも息づいています。
ハリウッドスターのカエサルカット
カエサルがハゲを悩んでいたエピソードとして、
月桂樹の冠で局部を隠すカエサル
批判者どころか部下が凱旋時に「妻を隠せ!薬缶頭(ハゲ)の女たらしのお通りだ!」と呼ばわる有様…。
このエピソードなどは、権力者であるカエサルが自己をハゲと呼ばせる事を容認していたという点で、薄毛に悩む男が寛容な精神を持っていることを示す証左と言えましょう。
我々も、これを見習い、誇り高く生きて行きたいものです。