左利き差別されすぎィ！

右と左。

人類の中にいつからそうした概念が生まれたのかはわかりませんが、人間の内臓が左右不均衡であることからも右手と左手がいつか決別するのは必然だった様に思います。

とはいえ古今東西、左利きが多数を占める文明や地域はありません。常に右利きが多数派を占め、左利きは人類史の中で普遍的な少数派でした。

考古学では石器などの考証で古代人の利き手を考える分野もあるそうですが、文化（もしくは幻想）として「左」が差別された事例をみてみましょう。

言語の中の「左」差別

そもそも英語で右を意味するrightからして「正しい、整っている、表、正義、真相」って意味ですもんね。

ではleftは？

leftの語源はlyftという古期英語で、これは「弱い、価値のない」の意味だそうです。

ラテン語の「左側」を語源とする「シニスター（sinister）」という言葉にも、「不吉な、縁起の悪い、悪意のある、邪悪な」といった意味があります。

「sinister looking」で「人相のよくない」という意味にもなるそうです。
か…顔は関係ないだろ！と言いたくなりますね。

またフランス語で左を意味する「gauche」には、「不器用な、至らない、洗練されてない、粗雑な、品位を欠いた、社会的な洗練が不足するさま」などの散々な意味があります。

スペインで「誰それが非常に利口」だという時の「ノ・セール・スルド（no ser zurdo）」というフレーズは、直訳すると「左利きでない」という意味があります。

「left-handed marriage」は高い身分の男が低い身分の女と結婚することであるなど、派生的な差別表現もある様です。

うーん、そこまで言うかってぐらいの扱いですね。

宗教の中の「左」差別

このように、聖書の中でも、右=よいと左=悪いという感じに区別されています。

おかげで中世に入ると左利きに対する厳しい差別となっていき、左利きというだけで魔女狩りの対象となっていきました。

悪魔が左で杯を受ける描写（『ヨーハン・ヤーコプ・ヴィックの年代記』より）

当然のことながら、キリスト教の儀式では十字を切り、祝福を与える手はいつも右です。

左手でこれをすることは神への冒涜だとされ、悪魔崇拝の儀式ではあえて左手が使われるとか。

洗礼を受ける時は要チェック！

イスラム教においても、左は差別されています。
よく知られている通り、イスラム教の中でも右手は丁重に扱われ、左手は不浄とされており、「コーランは右手で触れる」「食事は右手」「沐浴や浄めは右から」など規定されています。

ヒンドゥー教や仏教のルーツでもある「タントラ経典」でもやはり、右手を善良・神聖・健全なものとし左手を不純・邪悪・不健全なものとしています。

日本は？

ここまでみていると、右と左の対決は永遠に右が勝者の様に思えてきます。

しかし日本において左の扱いってそんなに悪かったでしょうか？
確かに左利き者は生活が不便そうではあるものの、左手が邪悪だなんてほとんどの日本人は考えていませんよね。

調べてみると、中国には「吉事尚左、凶事右」と左を重視する思想があり、王朝の交代によって左右の優勢も入れ替わっていたそうです。

中でも特に左を重視した唐の影響を受けた日本は、朝廷においても右大臣より左大臣の方が優位とされました。

また、皇帝（天皇）が南を向いて世界を見た場合、太陽の昇る東は左側となります。という訳で風水や陰陽思想では左が陽となり、縁起の良い方向となるのです。

右に左京、左に右京。天皇目線で左右が決められている

神道に置いても、イザナギの左目から天照大神が生まれたことから、左は神聖とされています。

参道の入り口にある「手水」の作法でも左手から先に浄めるそうです。

とはいえ、右が不浄とか邪悪とかって意味はありません。

善悪二元論の考えではどうしても分の悪かった左も、日本ではさほどひどい扱いはされていない様ですね。
円環的な思想の日本では、右は左になるし左は右になるじゃんってことなんでしょうか。

THE・左のない世界

結局のところ

左利きそのものが悪い訳ではなく、少数派ゆえに集団の中で目立ち、批判されやすかっただけと言うのが真相な気がします。

切り裂きジャックやビリー・ザ・キッドなど大悪人が左利きだったとの噂もありますが、世界中の犯罪者が全員左利きな訳ではありません。

逆にカエサルやニュートン、チャップリンが左利きだからといって左利き＝天才という訳でもないでしょう。

とにかく、ネガティブ要素を全部引き受けてくれている左あって、右もある。

みんな仲良くしましょうね。