大麻。
別名マリファナ、ガンジャ、ハシシ等。
日本でも、いわゆるドラッグとしての知名度は抜群ですね。
しかし、元アウトロー作家の浅田次郎によれば、日本国内での大麻の濫用は、飲酒運転と並んで最も割に合わない犯罪の一つらしいです。
酒と同じぐらいのトリップしかできないのに、重い刑罰に処されるリスクを犯してまで大麻をやるヤツは馬鹿としか思えない。どうせやるなら、シャb(ry
との事。
確かに、解禁論者の主張の一つに「大麻の身体への影響や依存性は、酒やタバコ以下」というのがあります。
危険じゃないから解禁せーやという理屈。
私も賢明な読者の皆様も、実際の大麻の効き具合なんて分かるわけないですが、実際どうなんでしょうか。
法規制
日本では、大麻取締法という法律によって、大麻は規制されています。
無免許で大麻を所持・譲り受け・譲り渡したら、5年以下(営利なら7年以下)の懲役。
これって、世界的にはけっこう厳しい部類みたいです。
例えば、G8(日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシアのこと)の中で、唯一日本だけが、大麻の単純所持で懲役刑になります。
他の先進国では、違法ではあるが、いちいち取り締まらないよとなっているのが実情のようです。
いちいち取り締まらない理由は、その有害性と依存性が低いこと。そして、古くから親しまれている嗜好品だからだと思われます。
一方では、コカインやLSDといった、より強い薬物へのきっかけとなり得るという指摘(通称「ゲートウェイ理論」)もあります。
ゲートウェイ理論そのものは、証明された理論ではありません。
が、それなりに納得感もありますし、大麻規制派の論拠の一つともなっています。実際どうなんすかね。
さて、ここまでが「嗜好品」としての大麻の話。
ハッピーな気持ちになるだけが大麻じゃない、というのが今回の主題です。
大麻の繊維
大麻と人間の関係は、少なくとも1万年以上昔に遡ります。
福井県の遺跡で1万年前の大麻の種が見つかっていますし、トルコでは5千年前の遺跡から、大麻の繊維を利用した布が見つかっています。
ちなみに縄文時代の「縄」は、大麻の繊維で作られた縄。
大麻の繊維から作られた布は、丈夫なのはもちろん、通気性、放熱性に優れ、さらには消臭、抗菌作用があることも分かっています。
こういった特徴から、衣服、カバン、米の保存袋、丈夫な紐・縄、油絵のキャンバス等々、幅広い用途で太古の昔から世界中の人々に重宝されてきました。
日本では、そのあまりの有能さと生命力の強さから、神様の依り代とされるようになりました。
神主さんがお祓いで使うヒラヒラのついた棒(大幣)は、麻糸が使われていますし、伊勢神宮で頂くお札は「大麻」と呼びます。
また、神主さんの服も、基本的には麻布で作られています。
大麻の油
大麻の種からは、油(ヘンプ・シード・オイル)が取れます。
この油は、古くはランプの燃料に使われ、また機械油や食用油としても使われていました。植物由来の油の中で、最も用途の広い油と言えます。
燃料としては、いわゆる再生可能なエネルギーとして石油に変わるものと期待されていますし、人間が体内で作れない必須脂肪酸をたくさん含んでいて、健康や美容にもよいです。
さらに、その抗菌性や消臭力を石鹸やシャンプー・洗剤に利用されています。
また、ヘンプ・プラスチックというものもあります。
これはヘンプ・シード・オイルを原料にしたプラスチックですが、石油由来の従来のプラスチックと比較して軽量で同等の強度を持ち、防音性にも優れ、廃棄すれば土に戻ります。
実際、ベンツやBMW、アウディ等の高級車の内装材にも使用されている事からも、その優秀性が分かります。
医療大麻
大麻を吸うとハッピーになるのは、THC(テトラヒドロカンナビノール)をはじめとする61種類のカンナビノイド類の成分が葉や花穂に含まれているからです。
このカンナビノイド類が、実はある種の万能薬的な可能性を秘めていることが、海外の研究で明らかになりつつあります。
主な効能としては、
沈静作用、催眠作用:精神安定剤としての使用や、PTSDの治療も可能。
筋弛緩作用:弛緩により気道が開く為、喘息の薬として古くから使われていた。
食欲増進作用、嘔吐の抑制:ガン治療時等の副作用の低減に有効。
抗ガン作用:米研究チームがガン細胞の増殖を抑制させる作用を確認。副作用の無い抗がん剤として期待されている。
眼圧の低下:緑内障治療に利用できる可能性あり。
脳細胞の新生作用:2005年にラットの実験で証明された。アルツハイマーの特効薬になる可能性がある。
免疫力調整作用:臨床試験では、免疫機能の改善が見られる。食欲増進や精神安定作用と合わせてHIV患者の症状緩和に効果がある。
その他、てんかん、うつ病をはじめ、250種類もの病気に有効と言われている。
どうですか。このエリクサー並の万能薬っぷり。
実際の効能のメカニズムにはまだまだ謎が多いものの、臨床的には効果が見られる為、世界中で医療大麻の研究は精力的に行われています。
日本の場合
というわけで、大麻には産業、医療といった分野で非常に大きな可能性を持っています。
さらに、大麻は非常に生育が早い植物で、二酸化炭素もたくさん消費してくれるという特性から、地球環境の保護にも役立つと期待されています。
しかし、こういった大麻の良い面というのは、日本ではあまり知られていません。
解禁論など、所詮はジャンキーの戯言として、一笑に付されてきました。
産業用大麻は非常に厳しい免許制になっており、主に神社での用途のものがわずかに生産されるだけ。日本には12㌶しか大麻の畑はありません。
医療大麻に至っては、大麻取締法がある為に、処方はおろか、研究をする事すら不可能です。
昔は生活に深く根ざした重要な植物で、現在その有用性も世界的に注目されているのに、なぜこうなってしまったのでしょう。
大麻が禁止された理由
1937年、アメリカで「大麻課税法」という法律が制定されました。
これは、ドラッグとしてのマリファナを規制する法律ではなく、繊維に代表される大麻製品に課税するというもの。
当時の大麻産業は主に布と紙。
しかし、課税により大麻製品の価格は高騰し、やがては誰も作らなくなっちゃいます。
これで得をしたのは、合成繊維業界と製紙業界。活発な設備投資が行われ、アメリカ経済の発展に寄与します。なお、この裏には石油産業を牛耳るロックフェラー財閥の影があるとかないとか…。
また、1933年に禁酒法が廃止され、取締官が余った為、役人や警察も新たな規制を歓迎しました。
こうして、社会的、経済的要請から、大麻の規制はスタートしたのです。
マリファナ課税法は1969年にアメリカ最高裁で違憲判決を受け廃止されますが、その頃にはドラッグ禁止法が制定されています。
大麻産業の弾圧ではなく、危険なドラッグだよというキャンペーンに既に移行していたわけですね。
少なくとも、大麻を規制した最初の理由は薬物として危険だからではないということは、認識しておかなくてはなりません。
日本での規制を巡る攻防
そもそも、日本ではドラッグとして大麻を楽しむ習慣はありませんでした。
一方で、繊維のように健全な用途?の麻は日本人の生活と深く繋がっており、大麻は稲と同じくらい重要な作物という位置付けでした。
大麻規制を巡る攻防
ドラッグの問題そのものは、20世紀初頭から国際的に問題となっており、1912年には万国阿片条約という薬物規制の国際条約も制定されました。
当初はこれに大麻は含まれていませんでしたが、1925年の国際会議で大麻も薬物に含むものとされました。
日本としては、大麻がドラッグとされた事に違和感を持ち、また、規制により国内産業に大きな影響が出ることも危惧していました。
が、そうは言っても「一等国」として薬物規制に関して足並みを乱すわけにもいかず、1930年には日本もこれに批准しました。
ただ、この万国阿片条約で規定された大麻は、「印度大麻(Indian Hemp)」。
日本の大麻は「印度大麻」じゃないよ、という理屈で実質的に規制せず、国内の大麻農家、繊維業界への影響を最小限に抑えました。
アメ公のゴリ押し
こうした日本政府の努力もむなしく、1945年に突如、「大麻」はその存在そのものが悪とされてしまいます。
終戦の年、日本政府は連合国(=アメリカ)からの要求(通称「ポツダム命令」)により、「麻薬原料植物ノ栽培、麻薬ノ製造、輸入及輸出等禁止」を制定します。
このポツダム命令の中の「麻薬」には大麻も含まれており、印度大麻、国産大麻を問わず、「大麻」はNGとなったのです。
1947年、この麻薬の規則からさらに大麻だけを別途規制する「大麻取締規則」が制定され、以後十数回に渡る改正によりどんどん厳罰化されていきました。
大麻の「麻」と、麻薬の「麻」。これが同じ漢字だった事も、運が悪かったと言えます。
本来は、
・大麻の「麻」→植物の「麻(あさ)」
・麻薬の「麻」→しびれるという意味の「痲」
なのですが、戦後に常用漢字が定められていく中で、「痲」に「麻」の字が当てられました。
その結果、大麻=麻薬というイメージが形成されてしまいました。実際には、現代においても麻薬の定義の中に大麻は含まれていません。
日本における大麻規制がポツダム命令をきっかけに進められたことを考えれば、その裏には合成繊維を普及させたいアメリカの強い意向があったのは明白です。
大麻とどう付き合うか
そんなアメリカでも、ここ数年、大麻解禁の動きが出てきています。コロラド州とワシントン州では嗜好品としての大麻が正式に合法となりました。
ヨーロッパでは、先にご紹介した様々な有用性の研究開発が進められています。
医療大麻は既に合法ですし、産業用大麻も実用化されてきています。
アメリカもようやくこの方面に力を入れ始めたという所でしょうか。
が、日本では、大麻については議論さえ許されない風潮があります。せっかく優れた技術力があるのに、世界に遅れをとっちゃってもいいんですかね…?
人間は、結局のところ自分の信じたいものしか信じない傾向がありますよね。
大麻をドラッグと見なす方にとって、この記事はきっと単なる与太話。聞く耳を持ってもらえません。
一方、大麻解禁派の方は、この記事に書かれていることをすんなり信じるかもしれません。
しかし、どちらの姿勢も健全とは言えません。
どちらも健全とは言い難い。
もしちょっとでも興味を持ったら、自分で色々調べてみてはいかがでしょう。自分の常識が崩れるのは、けっこう楽しいものです。
この記事が、最初の興味を持つきっかけになれば嬉しいです。
常識を疑え
考えることをやめると脳は腐る
2013年 ー エクアドル哲生