この間、「異端者の家」という映画を観てきました。
「ブリジット・ジョーンズの日記」みたいなラブコメばっかり出てたヒュー・グラントが、珍しく悪役をやっていて話題になった映画。
A24大好き
劇中でヒュー・グラントが若い女子に延々とキリスト教についての知識マウントをするのですが、アブラハムの宗教をモノポリーで説明したり、レディオヘッドの「Creep」で例えたりと、独特な語り口が新鮮で、たいへん楽しく鑑賞しました。
私が特に興味を惹かれたのが、次の台詞(うろ覚え)です。
「ここに飾られている神々はみな12月25日生まれ。彼らはイエス・キリストが誕生する以前から存在していたんだよ ^ ^」
これが事実なら、かなり衝撃的である。
歴史学や神学で認められている事実なのか、それとも一部のマニアの主張なのか。早速、この件の事実関係などを調べたので、ご報告いたします。
12月25日
12月25日といえば、クリスマス♪
クリスマスといえば、子供達がプレゼントをもらい、カップルたちがはしゃぐ日。日本にも深く浸透した習俗です。俺たちにはあまり関係ない日でもあります。
クリスマス(Christmas)は、「Christ」(キリスト)+「mass」(ミサ、典礼)が由来。一般的にはイエスの誕生日とされてます。
しかし、実はそんなことは無いのです。
新約聖書には書かれていない
そもそも、イエス・キリストという人物は、紀元前6年くらい〜紀元後30年くらいに活動したとされています。
現代の我々が使用している暦ではイエスが割礼を受けた年を紀元1年としていますが、イエスの活動期間が紀元前6年くらいからなので、もうズレてますよね。
だいたい、イエスの誕生日はかなり大昔のことなのでイエスの誕生年月日を特定する資料は存在しません。新約聖書にも書かれてません。新約聖書には季節を表す描写もないので、推測も不可能なのであります。
神学界隈では、3月、5月、6月、9月などいくつもの説が提唱されていますが、未だに定説はありません。
なぜ12月25日になったのか
では、なぜよく分からないのに12月25日がイエスの誕生日とされているのか。
それには、冬至が深く関係しています。
現代の冬至は、「太陽が黄経270度を通過する日」と定義されていて、12月21日か22日のどちらかになります。しかし、キリスト教が生まれた古代ローマ時代は、現代の暦とちょっとズレていて毎年12月25日とされていました。
で、冬至というのは太陽が一番短い日であります。逆に言うと、冬至を起点として太陽が出ている時間がどんどん長くなるわけです。
そうしたことから、太陽が復活する日と考えられ、キリストが生まれるもっと前から世界各地で冬至に太陽の復活を祝うお祭りが催されていました。
例えば、古代ローマでも、ペルシャから伝わったミトラ教という太陽神ミトラを崇める宗教が流行していました。この宗教では、太陽神ミトラの生誕祭が12月25日に行われていました。
初期キリスト教の成立において、ミトラ教は大いに影響を与えたとも考えられています。
12月25日生まれの神々
ここから本題。
冒頭に申し上げた、キリスト以前に存在した12月25日生まれの神々について、以下に代表的な神々を列挙するとともに、イエスと酷似したエピソードをご紹介します。
ミトラ
上で触れた太陽神。
太陽神ミトラ
・母親は処女。
・12人の弟子を率いて教えを広めた。
・死者を蘇らせ、病を癒し、悪魔を追い払うなどの奇跡を起こした。
・天へ帰る前に12人の弟子とパンを食べた。(最後の晩餐)
クリシュナ
紀元前4世紀(もっと古いかも)からインドで信仰されているヒンドゥー教の神。
女好きという決定的な違いはある
・ヴィシュヌ神の化身、神の子として誕生。
・王による迫害を受け、隠れて育った。
・奇跡によって人々の病を治し、慈愛と救済を説いた。
・「クリシュナ」と「キリスト」で音が似ている。
デュオニソス
ギリシャ神話に登場する豊穣とブドウ酒と酩酊の神。
冷静に見るとやばい絵面
・ゼウスの子(神の子)として誕生。
・母の胎内で焼け死んだが、再生した。
・水をワインに変えた。
アティス
ギリシャ・ローマ神話の植物神アティス。
・母ナナンは処女。
・磔にされ死亡したが、3日後に復活。
オシリス
古代エジプトの冥界神。
死から復活してミイラの姿
・太陽神ラーの子として信仰される。
・誕生がオリオン座の3つの星によって告げられる。
・セト神に殺されるが、妻の助けで復活。
・小麦の栽培法、パンとワインの製法を教え、法律を広めた救世主的存在。
ホルス
こちらは、オシリスの息子の天空神。
父であるオシリスよりも古くから信仰されてきた、エジプト神々の中でも最も偉大な神の一つです。
頭はハヤブサ
・冥界神の子として信仰される。
・処女イシスから生まれた。
・誕生した時に3人の賢者が訪れた。
・12人の弟子がいた。
・30歳で洗礼を受けた。
・水の上を歩き、病を治すなどの奇跡を起こした。
・十字架に磔にされ埋葬されたが、3日後に復活。
実際どうなのか
いかがでしょうか…。
ここまで、イエス・キリストにまつわる様々なエピソードの元ネタらしきものをいくつかご紹介してきました。
しかもその元ネタらしき神々は、イエスの誕生よりずっと前にすでに存在していたという…。
これが事実であれば、イエスという人物は紀元前から存在した様々な神話からコピペされた架空の救世主ではないかという疑惑につながります。
これらは、キリストの実在を疑う人々の間でまことしやかに語られてきた主張であります。
しかし、このままただ一方の主張を紹介するだけではフェアではありませんので、もう少しだけ事実を見てみましょう。
異教徒模倣説
まず、太陽神ミトラの誕生日が12月25日というのは、ある程度本当。誕生日とは断言できませんが、冬至(昔の12月25日)に生誕祭が行われていたのは事実で、これがキリストの生誕を祝う日になっていったという説は実際にあります。
しかしながら、それ以外の神々の誕生日が12月25日というのは、根拠ゼロ。神話のどこにも書かれていません。
さらに、ワインを水に変えたとか、水の上を歩いたみたいなエピソードの数々も同様に、根拠ゼロ。
ここまで読んでいただきながら、本当に申し訳ない。
こうした説は、異教徒模倣説(The Pagan Copycat Theory)と呼ばれ、結構前から定期的に流行してきたものです。
最初は18世紀ごろ、啓蒙主義という考え方が広まった時代。啓蒙主義というのは、ただ頭から聖書を信じるのではなく、理性でもってこの世を把握しようという運動が流行しました。その運動の一環で、聖書を批判しイエスの実在を疑う、ということも行われました。
その後も定期的に流行り廃りを繰り返している、ある意味人気なコンテンツだったりします。
私自身も、こうした神々のエピソードを調べていく中で、元の神話とかもちょろっと読んだりしましたが、キリストと類似したエピソードが書かれた原典の文章は、本当に一つも見つけられませんでした。
まとめ
というわけで、一瞬ワクワクしたが、よくよく調べてがっかりするという、これ系の話によくあるパターンでした。
ただ、定期的に流行するコンテンツなので、こういう話も知っておいて損はないかと思いました。
参考文献・サイト様
Suns of God: Krishna, Buddha and Christ Unveiled (English Edition)
ツァイトガイスト
一般財団法人日本聖書協会
Why is Jesus’ story so similar to older, ancient myths?
The Pagan Attis and Christian Jesus: A Spurious Connection?
Are the Osiris and Jesus stories really that similar?
Quora_Is Jesus just a copy of the…
コメント
記事更新嬉しい…嬉しい…
最初アラビア起源説とか隠し財宝とか何回も見てます!